靴を巡る大冒険 - プロローグ -
ビスポークしたい!ロンドンでビスポークしたい!

そもそもこれが、今回の旅の一番の動機。不純?ビスポークって、当然、靴のビスポーク。大分前から、注文先はロンドンのフォスター&サンと決めておりました。とにかく、イギリスのクラシックが欲しかったのですね。
しかし僕には、もう一つ、気になって仕方がないビスポーク・シュー・メイカーがありました。それは、ウィーンにあるゲオルグ・マテルナ!大学2年生の時に、原宿にあったテイラー、ブルー・ロンドにて初めて見てから、独特の革の質感と、どことも似ていないトウラインとシェイプに惹かれたものです。
ですが……これらを実現するには、当然、相当なお金が必要。ロンドンとウィーンへの渡航代、宿泊費、そしてビスポーク費用………。お金を貯めるの、かなり辛そうだなあー……とため息。ここまでが2000年ごろの話です。

しかし、この頃の僕は、まだレディメイドで欲しい靴がたくさんありました。そこで向かったのがパリ!2001年3月中旬のことでした。僕はベルルッティやJ.M.ウェストンにて靴を購入!さらにシャルヴェやアルニスにて、シャツをオーダーしたりして、楽しんで参りました。
「あとはオールデンで欲しい靴がいくつかあるけど、これらは海外通販すればいいよな。次に海外旅行に行くことがあれば、それはビスポークする時だ!」
パリから帰国後の僕は、ずっとそんなことばかり考えておりました。ビスポークへの意欲は増すばかりです。

しかし……僕はちょっと考えてみました。ロンドンだけでなく、ウィーンにも行くとなると、ちょっと足を伸ばせばブダペストにも行けるじゃないの。話だと、ブダペストにも、結構なビスポーク・シュー・メイカーが存在するという。そして調べてみると、ウィーンからブダペストまでは、なんと列車で片道3時間程度とのこと。思っていたよりも近い!さらに、ジャーナリストの浅井久仁臣さんに聞いたところ、「ハンガリーは職人の国」とのこと。なるほど、となると、靴だけでなく、スーツやシャツも、面白いメイカーがありそうだなあ。

「よーし、せっかく行くんだったらブダペストにも行っちゃおう!日帰りで靴見学だい!」

と言うわけで、当初はロンドン・ウィーン旅行だったはずが、ブダペストも予定に加わりました。これが2002年初めごろの事です。

それからある日のこと、僕は靴職人の高橋さんに、いつかウィーンとブダペストに行ってみたい、と話をしました。すると高橋さん、強い口調でこう勧めてきました。
「ウィーンとブダペストに行くなら、絶対プラハにも行った方がいいよ。オレ、昔、ウィーン、ブダペスト、プラハと旅行して来たんだけど、プラハが一番良かったよ。街は綺麗だし、静かだしね。(ウィーン、或いはブダペストからプラハへ)行くの、そんなに時間はかからないはずだよ。せっかく行くんだったら、もう少し足を伸ばして、プラハに行った方がいいよ」
うおー!そうなんだ、プラハってそんなにいいんだ!今までそういう評判、聞いたことがなかったなあ(←無知)。そうか、それならせっかくだし、プラハまで行っちゃおうかな。綺麗な街並みはもちろん好きだし、観光だけでも楽しめそう!それに、有名な都市なんだから、まだ見ぬビスポーク・シュー・メイカーがあるかもしれない!もし見つけたら、これは大発見だぞ!僕はまたも、心を躍らせました。

「よーし、プラハにも行くぞ!まだ見ぬビスポーク・シュー・メイカーを探すんだ!観光だって楽しんじゃおう!」

と言うわけで、ロンドン、ウィーン、そして日帰りでブダペストだったはずが、プラハも予定に加わりました。こうなると当然、ブダペストも日帰りというわけにはいかないから、泊まり……。
いや、ちょっと待てよ?これだけの国を周るとなると、結構日が経つじゃん!となると、もし仮に、ロンドンでスーツを注文したら、仮縫いができるぐらいの期間になるよなあ……。
うーん、いずれロンドンでスーツを誂えたい!という気持ちはある……。それならいっその事、このせっかくの長期旅行を利用して、スーツもビスポークしちゃおう!プラハまで行ったら、ロンドンに戻って、スーツの仮縫いだ!

ここまで考えたのが、02年終わりごろだったと思います。そして、プラハからロンドンへ戻るとなると、自ずとその途中で、イタリア、フランスあたりも通る事になるので、せっかくだから、こちらの国にも立ち寄って、買い物も楽しもう!という事になりました。

そして、その頃……。雑誌の「Men's Ex」にて、ジャーナリストの中島渉さんが、東欧靴の取材記事を掲載しておりました。するとなんと、ポーランドにも優秀なビスポーク・シュー・メイカーが存在するというではありませんか!ぬおおー、見に行ってみたい!ポーランドにも行ってみてーっ!
でもそうなると、またお金かかるよな、難しいよな、遠いよなー……うーん、どうしようかなあ。ポーランドにも行こうかなあー。
迷いながら日は過ぎていき、お金を貯める僕。

数ヶ月が過ぎて、僕は旅行計画を具体的にするため、ガイドブックを読んで下準備に取り掛かりました。すると、ポーランドには、かの有名な、アウシュヴィッツ強制収用所があるというではありませんか!そう、第2次世界大戦時に作られた、人類史上における恐怖の遺産……。うう~ん、これは人として、一度は見に行っておくべき所なんじゃないの?それに、プラハまで行って、その後、また東欧を訪れる機会が果たしてあるのだろうか?これは行けるうちに、行っておくべきじゃないか……。

と言うわけで、旅の計画に、ポーランドも加わりました。これが2003年終わり頃だったと思います。僕の欲張りな性格のために、どんどんかさんでくるビスポーク旅行費。いつまで経っても、全然お金が貯まらない……。

そんな中、ちょっと気になっていたのがルーマニア。どうもこの国にも、ハンドメイドの良質の服や靴が残っているらしい。実際、GTAはルーマニア製だったし、ウィーンのバリントもルーマニア生産。中島渉さんも、「ルーマニアには良いテイラーがあるらしいので、行ってみたい」とコメントしていた……。うーん、興味津々。でも、この国のどこに、どんなお店があるか、あまりにも情報がなさすぎるんだよな……。おまけに、首都のブカレスト(ブクレシュティ)は結構な治安の悪さだという。そう考えると、ルーマニアに行くのは、結構厳しいものがある……。うん、やっぱり、何から何まで、全てを求めちゃいけないよな。まず今回の旅では、ルーマニアには外して、また今度、別の機会に行こう……これが人生最後の海外旅行ってわけじゃないんだし!

そんなこんなで、ようやく旅に出れるだけのお金が貯まったのが、2004年半ば!なんつー日の経ちようだろうか。そして、どうせ行くなら、飛行機代や宿泊費も安く済む、オフシーズンに行こう!と出発は11月に決定。さらに、ちょっと色気を出して、上記の都市以外にも、面白そうな町には立ち寄っちゃおう!と考える僕。まずはロンドンから入って、その後、ウィーンに行き、列車で中東欧を周り、そしてまた、ロンドンに戻るのだ!

この時点まで、イタリアはどこの都市に行こうか迷っていましたが、最終的には、観光重視でヴェネツィアに決定!以前から、元バックパッカーの知人より力説されていたのだ。

「今まで言った街で、一番美しかったのはヴェニスだよ。水に浮かんだ景色がすごく幻想的でね……。ここは絶対に行った方がいいよ。やっぱりヴェニスだよ……」

靴・服好きの僕としては、ナポリかフィレンツェに行きたいなー、とも思ったが、どうも予算の都合上、イタリアで買い物は厳しそうだ、というのが分かったのだ。

そして、出発まであと2週間ほどとなったその頃!僕はとある方から、
やはりルーマニアのハンドメイドシューズは良いらしい、という話を聞く。僕のルーマニアへの興味が、再び高まりました。
もしルーマニアに行くとしたら……うーん、どうしよう?まずは、首都のブカレストは外せないよな。どこにどんなお店があるかはまったく分からないけど、まあ、首都に行けば、何かは発見できるんじゃないか?あとは……まあ、田舎町でのんびりしようかな?ルーマニアは物価安いそうだし、その点は助かるよなー……。
急遽、元バックパッカー(前述の、ヴェネツィアを勧めて下さった方とは別の人)の友人や、「地球の歩き方」を通じて、ルーマニア情報を仕入れる僕。ルーマニアに行くかどうかはまだ曖昧だけど、日程上、行こうと思えば行ける!ルーマニア行きにも、だんだん乗り気になってくる僕。

04年10月初めに、ついに飛行機のチケットを購入!航空会社は、ひたすら安さ重視でアエロフロート航空!モスクワでの乗継便で、往復で45,000円!
そして、ロンドン~ウィーン間の航空券もゲット!オーストリア航空で片道15,000円と、これまた安い!
出発日は11月1日に決定!
さらに、東欧を重点的に周る予定なので、東欧レイルパスもゲットする。
トーマス・クック時刻表に、「地球の歩き方・中欧編」も購入。
「靴談話帳」でも、11月より旅に出ることを公表!
防寒用にダウンジャケットや、保温力に優れた下着も購入。
クレジット・カードも、2枚ほど新たに作る。
ロンドンでの宿も、ネットから予約。他の国の宿は、現地で探す予定だが、まあ何とかなるだろうー……。
宿のお金に困った時のため、万が一に備えてユース・ホステル・カードも作る。
フォスター&サンでも、テリー・ムーアさんとのアポイントをとる!
ロンドンでの某テイラーとのアポイントもとる!

準備を着々と進めていって、否が応にも高まるワクワク感!

ちなみに僕にとって、これが3度目の海外旅行。1回目は、高校2年生の時、修学旅行で中国の西安と北京へ。2回目は、前述のとおり、大学4年の終わりにパリへ。
中国は学校が連れて行ってくれたので、自分は楽なモンだったし、パリ旅行も、航空券とホテルの手配は旅行会社に頼んでいたので、自分はあまり苦労はしていない。

しかーし、今回は違うぞっ!旅行会社にお願いしたのは、ロンドン~日本の往復航空券と、ロンドン~ウィーンの片道航空券、そして東欧レイルパスのみ!他の事は全て、自分の力でやらなくてはならないのだ!しかも多くの都市を周る長旅!期待と同時に、不安もすごく大きい。自分の力が試されるのだッ!(大袈裟?)
でも僕だって、もう27歳。これぐらいのことは、一人でやれるはずさっ!下調べだって、かなりやったのだ。あとは当たって砕けろだい!ず~っと前から、行きたくて行きたくて仕方がなかったビスポークの旅!しかも最終的には、こんなに多くの国を周るという、大げさなモノになった!
ついに実現!やったぜっ!!!

さ~あ、
いよいよ出発だっ!!!



11月1日 - 怪しさと親切のロンドン -
パッキングにやたらと時間がかかってしまい、家を出たのは時間ギリギリ。機内で暇するのは嫌なので、グッスリ眠って過ごしたい。そのため、わざと徹夜している。前日も、3時間ほどしか寝ていないので、ひたすら眠い事だけはバッチリだ。さあ~これから長きに渡って、我が家を留守にするのだ。さよなら、自宅。

それにしても、荷物が重い。スーツケースが重い!中に入っている、スーツとコートが重いのだ。しかも、他にブリーフ・ケースまで別に持って来ている!これらが必要となるのはロンドンだけなのだが、それでも、持って行かないことには、カッコがつかない。

やがて、成田空港到着。海外旅行は本当に久しぶり。空港内を右往左往しつつ、我ながらぎこちなく、搭乗手続きなどを済ます。航空会社はアエロフロート。安いだけあって、どこか悪いところもあるのだろうと思っていたが、案の定、出発が1時間遅れるという。13時半出発が14時半に。まあ、そのくらいは問題ない。国際通話用のテレフォン・カードを買ったりして、空港内でのんびりする。
飛行機内に入るが、機内はキレイでとくに不満はない。席は狭いけど、エコノミーなのでこれは当たり前。そして嬉しい事に、オフシーズンのせいか、席がところどころ空いてるのだ。ゆったりできる~!さあ離陸!
そして、聞こえてくる機内放送……英語は当然として、他の言葉は何を言ってるのか、分からない。アエロフロート航空なので、ロシア語だろうか?まー、適当に聞き流せばいいや。
……と思っていたのだが………ん……?
よ~く聞いてみると、なんか聞き覚えのある言葉な気もする……。
ん~………………

ゲッ!これ日本語じゃん!

機内放送が流れてから、しばらく経ってようやく気付く。あまりにも発音が悪すぎて、よく分からないのだ。まあー、機内放送なんて聞かなくても、とくに不都合はない。機内ではひたすら眠り、起きたら機内食を食べ、そしてまた眠るの繰り替えし。気付けばモスクワに到着。

トランジットのため、いったん飛行機を降りるが、その時に感じる冷たい隙間風。ヨーロッパへ向かってる事を実感する僕。

「トランジットの際、どこに行けばいいかは、降りる客の流れに乗って進めば分かりますよ」

旅行会社の方から、そんな事を聞かされていた僕ですが……。あれ?ちょっと待て。一番最初に降りる客が僕になっているぞ。

僕が先頭じゃん!

そして僕が移動すると、案の定、他のお客全員、僕の後をついて来る。そして、
誰も僕を追い越そうとしない。

やばい……。

背中に冷や汗を感じる。

自ずと僕が、トランジットする客、
全員を先導するはめになっている。僕が行く先を間違えたら一大事だぞ。

僕はどこに行けばいいのか、よく分からないまま、歩を進める。「こっちに行けば良いのかな」と、空港内の矢印表示と勘だけを頼りに進む僕。そしてひたすら、
僕の後ろを付いて来る、他の乗客たち。

あの……、僕、適当に進んでいるだけですから、間違っていても怒らないで下さいね。

しかし何とか、僕の判断は正しかったようで、辿り着いた先は、問題なくトランジットの窓口であった。あー、良かった。

それにしても……、モスクワのシェレメティエヴォ空港は異様に薄暗い。現在は営業時間外(空港だから、そんなわけないんだけど)で、もうすぐ閉店時間なのか?などと妙な勘違いをしそうなほど暗い。随分辛気臭いなあ。機内放送といい、このうさんくささ、僕は嫌いじゃないのである。

飛行機を乗り換えるが、モスクワからロンドンへ向かう便は、結構混んでいた。しかし、そんなに長時間のフライトでもないし、混んでることは覚悟のうえでの格安航空券なので、気にしてない。相変わらず、何を言ってるのかよく分からない日本語機内放送を聞きつつ、
ロンドンに到着!

入国審査時には、思いの他、色々聞かれた。ロンドンにはどのくらいいるんだ?何をしに来たんだ?どこの宿に泊まるんだ?……等。テキトーに答えたが、すんなり通してもらえると思っていたので、少し困惑する。
入国審査を終えて、ターミナルを出るが、何しろ初めてのヒースロー空港。どこに行けばいいやら分からず、ウロウロする。
とりあえず、僕が予約している宿はパディントン駅のすぐ近く。ヒースロー・エキスプレスに乗れば、パディントン駅まで直行だ。運賃がちょっと高いので、できれば乗りたくなかったが、まずは宿で落ち着きたい。

キョロキョロしながらヒースロー・エキスプレスの発着口を探す僕。初めての土地のせいか、とくに理由もなくビクビクする。きっと傍から見たら、典型的初心者日本人観光客に違いない(そのとおりなんだけど)。オロオロしているのが、我ながら情けない……。
空港内にある案内に従って、発着口へ向かうが、その途中、突然、知らないおじさんに声をかけられる。

「おい、おまえ、どこに行くんだ?こっち、こっちだ。こっちに来い」

そう言って手招きし、僕を誘導してくる。案内係の人だろうか?とりあえず、付いていく僕。

「どこに行きたいんだ?」
「パディントン」
「そうか。こっちに来い」

おじさんは足早に僕を誘導する。僕は重いスーツケースを引きずっているので、付いていくのが結構辛い。
「ほら、急げ、急げ。こっちだ」
おじさんはそう急かす。
「ヒースロー・エキスプレスを探してるんだけど……」
「ああ、こっちだ。早く来い」
おじさんの誘導は結構強引。言葉使いも荒っぽいし、愛想もない。ひょっとしたら、案内係じゃないのかしら……。ちょっと不安になる僕。
やがて、動く歩道に乗る。おじさんはようやく立ち止まり、僕の方を振り返る。
「……で、おまえはどこに行きたいんだ?」
さっき問われたことを、もう一度聞かれる僕。
「パディントン駅。だから、ヒースロー・エキスプレスを探してるんだよ」
「そうか……、ヒースロー・エキスプレスは高いぞ。50£する」

いっ?それって、話と違うぞ。ガイドブックによれば、13£と書かれている。現在は値上がりしている可能性もあるだろうけど、それでも50£なんてことはないだろう。やっぱり怪しいぞ、このおじさん。ちなみにこの時、イギリスの通貨・£が、実際は「ポンド」ではなく、「パウンド」と発音する事が分かり、ちょっと戸惑った……。

「そんな話、聞いたことないぞ」
僕は反論する。
「何言ってるんだ。ヒースロー・エキスプレスは50£だ。高いだろ」
おじさんの表情はニヤついてる。うーん、
やっぱりうさんくさい!
「自分はそんな話、聞いたことない」
また僕は反論。
「いや、50£だ」
おじさんの表情はニヤついたまま。なんか、ヤバそうだな……。動く歩道の行き先を見ると、暗がりで人影なし。このまま進むのは、なんだか怖い……。人気のないところで襲われたら、早速おしまいだぞ。なにせ、重いスーツケースをひきずってるのだ。逃げる事ができない。
「いや、そんな話(ヒースロー・エキスプレスは50£かかる)聞いた事ないから。じゃ」
僕は踵を返す。振り返ると、おじさんは僕を追いかけることもなく、「ケッ」と吐き捨てるような表情。うーん、どうやらやはり、親切心で誘導してたわけじゃないようだ(今頃気付くな!)。
動く歩道を逆走して、来た道を引き返す僕。情けない……。重いスーツケースが、とても邪魔に感じる……。

いざ、ヒースロー・エキスプレスのチケットを買うと、やはり13£だった。
あのヤロー、やっぱり嘘つきやがって!

あのままおじさんに連れられていたら、無理矢理タクシーに乗せられて、ボッたくられたりしていたのかなあ?

ヒースロー・エキスプレス内は空いていて、ゆったりできた。それでも、初めての街で、しかも、さっきのいきさつもあるので、「怪しい奴はいないだろうな?知らぬ間に、何か盗まれたりしないだろうな?」と、内心ビクビクする。

パディントン駅に到着。結構広いので、どこの出口から出れば、宿に近いのか分からない……またウロウロして戸惑う。時刻はもう、22時近い。お店もほとんど閉まっており、駅構内は結構寂しい……。駅から外に出るのが怖い。駅から出た途端に、誰かにとり囲まれたりしたら、どうしよう?とビビリまくる。
しかし、そんな事も言ってられないので、思い切って外に出る。やっぱり日本と比べて、ロンドンは寒いなあ。

まずは地図を広げて、宿の場所を確認する。徒歩5分ほどの距離と聞いている。夜、知らない街で迷子になるのは避けたいので、適当に歩き出したりはせず、慎重に調べる。地図を見て、通りの名前を確認し、あたりをキョロキョロする僕。すると突然、声をかけられる。
「おい君!どこに行きたいんだ!」
おじさん二人が、僕に歩み寄ってくる。何か身分証明書みたいのを首にぶら下げているので、何かの係員だろうか?制服は着ていないので、警察じゃなさそうだが……。
「えっとですね、ここの宿を探してるんです」
せっかくだから、地図を見せて聞いてみる僕。
「おう、そうか。えっと、ここはな、ここをこうこうこうこう行って、ここを曲がって、こう行くんだ」
親切に教えてくれる。
「ありがとう」
嬉しくて、僕はにっこり。
「いえいえ」
おじさんは立ち去る。さっきは、知らない人に騙されそうになったと思ったら、今度は親切にしてもらえた。ロンドンは悪い人たちばかりじゃなさそうだ……。

予約していたB&Bの宿に到着。呼び鈴を鳴らすと、30歳前後ぐらいのお兄さんが現れる。「待ってたよ」と微笑みとともに声をかけられ、小さい受付に通してくれる。
宿泊料はシングルのトイレ・シャワー付で30£。とにかく安い宿を、ネットで探しまくったのだ。宿泊の手続きを済ますと、お兄さんは部屋の鍵とバスタオルを渡してくれる。安宿では、バスタオルは持参するものだと思っていた僕は、嬉しい。そして、お兄さんは僕のスーツケースを持ってくれ、僕が泊まる部屋と、朝食時の食堂へと案内してくれる。僕のスーツケースは荷物でパンパン。相当重いので、サーヴィスとはいえ、持ってもらうのは悪いなあ……。
「ありがとう。これどうぞ」
イギリスはチップの国と聞いていた僕は、お兄さんに、荷物を持ってもらったお礼のチップを渡す。
「いらない、いらない」
お兄さんは笑って拒否する。意外……。
「でも……」
「いや、いらないから」
お兄さんは、このくらいでチップなんていらないさ、と言わんばかりの表情。そういうものなんだろうか?うーん、貰える物を貰おうとしない、この謙虚さ。やはり、ロンドンは悪い人たちばかりじゃなさそうだ……。
考えてみれば、ここは紳士の国・グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国である。

ようやく部屋に着いた!疲れた~!部屋は古びていて、狭くもあるけど、テレビにシャワー、トイレも付いてるんだから、僕にはこれで十分だい!やっほー!

夜のロンドンへ早速飛び出す!宿の周りをウロウロ散歩し、またパディントン駅へ戻り、駅周辺の道を記憶する。
帰りにチャイニーズ経営のお店で、ペットボトルの水を買う。まだ見慣れていない、£コインに対して戸惑う僕に、店のおじさんは、「これが2£コインで、それが1£コインだ」と親切に教えてくれる。しかし僕は、ひょっとして、騙してたりしないだろうな?と、疑いの念も持ってしまう。ヒースロー空港でのおじさんの件で、人を疑いやすくなっている自分が嫌だ。

こうして、僕の大冒険の初日は終了。しかし、ロンドン到着から、早々に怪しい奴にからまれてしまった。ここは英語圏。まだ自分の意思疎通が、かろうじてできる国だが、この後は、もっと言葉が通じない国に行くのだ。あーあ、これから先、無事に旅を続ける事ができるのだろうか?先が思いやられるなあ……。
11月2日 - ミッション開始! -
朝、シャワーを浴びると、お湯がぬるい。安宿だと、このぐらいはガマンしなくてはならないのだろうか……ロンドンにはしばらく滞在する予定なので、これが毎日続くと、ちょっと辛い。

時間がもったいないので、7時早々にパディントン駅に向かい、これから必要な物を買いに行く。ウィークリー・トラベル・カードが欲しいところだが、これを購入するには、証明用の顔写真が必要と、手持ちのガイドブックに書いてある。なので、まず最初に、駅構内にあるインスタント証明写真機にて、顔写真を撮影。そして、ウィークリー・トラベル・カード購入のため、受付に向かうが……
写真は必要なく買えた………。
お金損した。まあでも、とにかくこれで、一週間はロンドンのゾーン1~2内のメトロとバスは乗り放題だ。そして、テレフォン・カードも購入。ロンドン在住の友人と、連絡をとるためである。レジにいる黒人のお姉さんが、僕にテレフォン・カードを手渡してくれる。
「はい、どうぞ」
「ありがとう!」
「どういたしまして」
そして、お姉さんは左手の親指をピッと立てて言う。
「Have a nice day!」
おおっ!日本ではありえないこの反応!嬉しい!外国に来たってカンジがするなあ~。ウィッキーさん以来、久々に聞いたフレーズだ!一人旅で、現地の人にフレンドリーに接してもらえると、その嬉しさはいつも以上……。

せっかくウィークリー・トラベル・カードを入手したので、早速使ってみる。今日のミッション先である、ノッティン・ヒル・ゲイト駅まで行って、またパディントン駅に戻る僕。

……考えてみれば、旅はドラクエと似ている。アイテムを得た分、行動範囲が広がるのだ。

ダイスケはウィークリー・トラベル・カードを手に入れた。テテテテン♪(←効果音)
ダイスケはイギリスのテレフォン・カードを手に入れた。テテテテン♪(←効果音)

そして宿にて、朝食を済ませる。メニューはベーコン・エッグにトースト2枚。あとはバターにマーマ・レードが付いてくる。飲み物は紅茶かコーヒー。毎日同じメニューだった。僕は胃腸が弱いので、紅茶を注文する事が多かった。僕はベーコン・エッグに醤油をかけて食べるタイプなのだが、ロンドンではそれができないのが悲しい……。
朝食を食べながら、宿のお兄さんに、シャワーがぬるいので、どうにかして欲しいと注文をつけると、お兄さんは、「調整しておく」とのこと。食堂から出る際に、洗い場の蛇口から出るお湯に触れさせて、「このぐらいの熱さにしておけばいい?」と聞いてくれた。これで、今後のシャワーは大丈夫そうだ……。

外に出て、公衆電話でロンドン在住の友人に電話をかける。最初、PIN方式のテレフォン・カードの使い方がよく分からず、宿のおじさんに聞いてみたところ、親切に教えてくれた。
電話に出た友人は気を使ってくれ、「こちらから電話をかけ直す」と言ってくれる。イギリスでは、公衆電話にも電話番号が付いている事を知って驚く僕。友人とは、今日の15時半に、パディントン駅にて待ち合わせの約束をした。

再び宿に戻ると、ミッション実行のためにスーツに着替える。竹下洋服店で誂えたものだ!
「これから会議に行くの?カッコ良いね」
部屋を出ると、宿のお兄さんがスーツを指してそう言ってくれて、上機嫌になる僕。しかし、いざ外に出ると、急に雨がパラパラと降ってきている。これがロンドン名物?の雨か……。傘を取りに行き、再び外へ。
さあ、ノッティン・ヒルへ行くぞ!ミッション内容は……
ポール・スミスにて、スーツのビスポークだっ!!!

(ミッション報告はこちらでどうぞ……)

ウェストボーン・ハウス近くにある商店街ミッション終了後は、とくにアテもなく散歩。ウェストボーン・ハウスのすぐ近くには、バランタインのショップや、カシミアやラムズウールの品を安く売っているショップ(ジョンストンズ・オブ・エルギンがあった)もあった。閑静な中に、高級店があるのが意外に感じる。地元の人たちが集まる商店街もあって、買い物の様子を見るのも、なんだか楽しい。そんなカンジで商店街を歩いてると、道行くオバさんにぶつかってしまう僕。
「あ、すいません」
謝る僕に対して、オバさんは笑って首を振る。
「何を謝ってるの?今のはあなたが悪いわけじゃないんだから、気にしなくていいの」
ロンドンの皆様は、やはり良い人のようだ……。

1時間ほど散歩して、道に迷ったところで大通りに出る。パディントン駅行きのバスを見つけたので、それに乗って、宿に戻る僕。

宿でスーツから普段着に着替えて一休みした後、再びパディントン駅に向かう。15時半に、友人と待ち合わせなのだ。しかし……いざ、パディントン駅に着くと、広いので、友人を見つけるのが、なかなか難しそう。そこで、友人の携帯電話に電話をかけて、パディントン駅構内ではなく、近くにあるマクドナルド前で待ち合わせにしようと伝える。あいにく、携帯電話は圏外で、直接言う事はできなかったが、留守録に残しておいたので、大丈夫だろう。
マクドナルドへ向かうため、パディントン駅を出て、横断歩道を渡る僕。そこで……

「あ~っ!」
「おおっ!」


なんと!その横断歩道上で、友人とバッタリ!偶然チックな再会に、ちょっと感動。しばらく会わないうちに、友人の髪型もちょっと変わっていた。かれこれ2年ぶりだい……。
駅近くのカフェに入って、友人と1時間半ほど雑談。これまでどうしていたのか、今は何をしているのか、つもる話を色々と。友人には、僕が別の国を回ってる間、スーツとコート、そして鞄を預かっていてもらう予定なのだが、友人は、それらがどのくらいの大きさなのか、直接見たいと言う。

カフェを出て、僕が泊まっている宿へ移動する。その途中、友人がタバコを吸い出すのに驚く僕。日本にいた頃は、タバコを吸っているところは見た事がなかったぞ……。友人に聞くと、日本を発つ、少し前から吸っていたと言う。それにしても、2年も経つと、やはり違うものだ……。
宿で、友人に預ける予定のスーツ、コート、鞄を見てもらう。友人は、このくらいの大きさなら大丈夫との事で、ホッと一安心。

その後、メトロで中心街に出て、友人にロンドンを案内してもらう僕。友人は、18時半からレクチャーを受けなければならないそうなので、その時間の少し前にお別れ。久しぶりに会えて、嬉しかった!
友人と別れた僕は、近くのお店で、日本から持って来るのを忘れたリップクリームを買う。外国で日用品を買うのは初めて。うーむ、なんだか我ながら、長期旅行者らしいぞお~。
11月3日 - お金損してケンブリッジ -
この日はケンブリッジまで足を伸ばす。ケンブリッジは学生街という事もあって、リサイクル・ショップが充実しているのだそうだ。程度の良いツィード・ジャケットが安く買えるのではないか?と期待で胸が膨らむ。
ケンブリッジへは電車で行くつもりだったのだが、友人からしきりに、「電車よりもバスの方が安くていい」と勧められた僕は、まずはケンブリッジ行きのバスが出ているヴィクトリア駅に向かう。欧州で有名なバス会社、ナショナル・エキスプレスのオフィスを見つけ、往復のチケットを購入。価格は10.5£と確かに安い……。出発時間は11時半、帰りは16時45分と決まった。帰り時間がある程度決まってしまうのは少し残念だが、まあ仕方がない。安く行ける喜びのほうが勝るのだ。
「出発時間には遅れないように。遅れたら、それでアウトだから」
受付の人から、そう注意される。出発時間まであと20分ほどあるので、近くをブラブラして時間を潰す。知らない国に来ていると、ただの散歩でも異様に楽しい。
出発時間まであと10分になって、また戻って来る。しかし困った事が……どこからバスが出発するのか分からないのだ。
バスターミナルにはバスががたくさん止まっていて、果たして、どれがケンブリッジ行きなのかよく分からない。人に聞いてみても、よく分からない。僕の英語力は悲惨を極めている。な、情けない!時間は刻々と過ぎていき、次第に迫って来る出発時間!オフィスに行って出発場所を教えてもらうも、いざその場所に行ってみてもそれらしきバスはない。一体どこから出発するのだ???本当に分からない。あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。バスターミナルをしきりにウロウロ。しかしケンブリッジ行きのバスは分からないまま。

そして気付けば……
出発時刻は過ぎていた。

その事実に呆然とする僕。わ、我ながら、なんという無様……。
せめて悪あがきに、再びナショナル・エキスプレスのオフィスに行き、「時間が過ぎてしまったのだが、どうにかならないか」と聞いてみる。しかし当然のごとく、「ダメ」とにべもない返事。冷淡に突き放す口調だった。そして最後に、「キッ」と指で首を掻っ切る仕草。うーん、とどめ。

はあ……自分の至らなさがカッコ悪すぎる。まさかバスの発車場所すら見付けられないなんて……。10.5£、安いなあと思っていたら、一転して損をしてしまった。情けない……。
それにしても、英語が通用する国ですら、この体たらく。果たしてこの後、本当に僕は無事に旅を続ける事ができるのだろうか?これから先は、英語圏でない国に向かうというのに……。
気持ちがかなり不安になって、背筋が寒くなる。はあ~…………、先が思いやられるなあ…………。

これからどうしようか少し考えたが、いつまでもクヨクヨしていられない。せっかくの旅、気を落としている時間だってもったいないぞ!落胆している気持ちを無理にでも奮い立たせて、電車でケンブリッジに行く事を決意する。バスで行くのはとり止めだ。また乗れない事態になるのはたまったものじゃないし、何より、バスは時間がかかる。これ以上、時間をロスしたくない。1日は24時間しかないのだ。
ケンブリッジ行きの電車が出ている駅に着くなり、切符を買おうとするが、売り場では結構行列ができている。当然並ぶしかないわけだが、いざ僕の番!と思ったら……突然、僕の前に男が現れて、サッと受付へ向かってしまった………。
へっ?なぜ並んでなかったその男が、僕より先に会計を済ますのだ?次は僕の番じゃなかったのか?この人は、何か理由があって、優先的に切符を購入できる立場の人なのか?そんな事を考えたが、次の瞬間に
ハッ!と気付く僕。
そうか……僕は今、
横入りされたのだっ!!!
こ、これが欧州におけるアジア人差別か……。ロンドン在住の友人も、たまにこういった差別行為をされるらしい。そしてたった今、自分も差別行為をされた事に気付き、怒りがムクムクと込み上げて来た。できる事なら、その男の背中、背骨を叩き折るがごとく思いっきり蹴り飛ばしてやりたい!!しかもトウキックで。しかし僕にそんな度胸はなく、何より揉め事起こしている暇もないので、怒りをグッとこらえる。
ケンブリッジ行きのデイ・リターン・チケット(1日往復券)は16.9£でした。

ケンブリッジへは電車で1時間程度。景色を楽しんでいるうちに着いてしまった。ケンブリッジ駅から中心街までは徒歩15分ほど。散歩には丁度良い距離だ。
ケンブリッジ

やはり学生の街。下校中の学生さん。自分もほんの何年か前まで、あんな姿だったんだよな……。
ケンブリッジ

ケンブリッジの公園。学生さんたちも多く遊んでおりました。
イギリスは福祉国家。そして、ケンブリッジではそんな慈善団体が運営するリサイクル・ショップが多い。お客のターゲットは、やはり学生さんだろうか。とくにオックスファムの存在は、僕も以前から、浅井久仁臣さんからよく聞かされていた。道中ではチャリティ募金を見かけたので、僕も少しばかり募金する。
そしてやがて、リサイクル・ショップが多く立ち並ぶバーリー・ストリートに到着!やはりと言うか、商店街には車椅子の人や、杖を突いて歩いている人など、身体の不自由な人も多く見かける。そんな人たちでも、日本のように臆することなく、普通に買い物を楽しんでいるのが印象的。良い事だなあ……日本も見習わなければ。
ケンブリッジ

チャリティ募金の様子。戦争被害者のための募金で、しっかり迷彩服を着て募金活動を行うのはさすが!
ケンブリッジ、バーリーストリート

リサイクル・ショップが立ち並ぶバーリー・ストリートの様子。
僕も各ショップに飛び込み、何か良さそうな衣類はないか?と商品を勇んで物色する。しかし………正直、期待していたほどの良品はない。簡単に言えば、欲しいと思える高級な衣料品はなく、どれもそこそこの品ばかり。知っているメイカーはマークス&スペンサーがせいぜい。どこのお店でもそんな感じ。日本のリサイクルショップは高級品が全然珍しくないが、ここ、イギリスはそうではないのだ。期待はずれで落胆してしまう僕。はあ……。
ケンブリッジのリサイクル・ショップ

リサイクル・ショップの一つ。
ケンブリッジのリサイクル・ショップ

左に同じくです。
道中、少しお腹がすいたので、フィッシュ&チップスを買う。僕にとって、生まれて初めてのフィッシュ&チップスだ。
「ビッグ・サイズ?スモール・サイズ?」
そう聞かれたので、スモール・サイズを選ぶ。何しろ初めてのフィッシュ&チップスなので、マズかったり、量が多すぎたり、油っこすぎたりで、食べられない事態を避けたかったのだ。
しかし、出てきたのはスモール・サイズにも関わらず、思っていたよりも量は相当多い!さすが、本場は違うぜっ!!食べてみると、味は悪くない。手が油でベトベトになるけど、まあ、これは仕方ないか……。バーリー・ストリートを抜けた所に公園があったので、そこのベンチに座って、のんびり食べる。ちょっと寒いな。飲み物を買い損ねたので、水なしで食べなくてはいけないのがちょっと辛い……。

フィッシュ&チップスを食べ終えると、散策再開。公園を抜けたところに売店があったので、ジュースを買う。さらに歩き続けていくと、ケンブリッジは学園都市としての姿を顕にしていく……。
ケンブリッジの公園

山下大輔はここでフィッシュ&チップスを食べた。
ケンブリッジ

ケンブリッジの様子。

ケンブリッジ
ケンブリッジ
その美しい街並みにうわあ、と思う。ドキドキする。古めかしい建物には風格が漂い、ロマンティック感さえある。日本の大学とはスケールが違う。歴史と重みを感じる。ケンブリッジはイギリスの有名都市だけあって、人も多く、お店も多いが、その割に騒がしさがなく、落ち着きのある街。やはり学園都市ならではであろうか。また、現代的なショップも多いが、決して街の景観を損ねていない。こんな素敵な所で学生生活を送れたなら、本当に幸せだろうな……僕の頭じゃ無理だけど。
バス代損して、買い物もろくにできなかったけど、来て良かったと思う僕。いや、バスだと帰りの時間が制限されるから、電車で良かったのかもしれないな……。
あと、意外に目に付くのが、日本人らしきアジア人の姿。日本人が、このケンブリッジの大学で頑張っている事を思うと、なんだか誇らしく思う。頑張れ、日本の頭脳!

途中、カレッジ向けの衣類を扱うショップを見つける。店名は、「RYDER & AMIES」。二階建てで、さぞかし歴史ありそう。学校ごとの各種エムブレムも扱っており、ケンブリッジの学生さんは、ここでクラブのチームウェアを作ったりするのかな?このお店では、コミッションなしでドル、ユーロ、そして日本円の両替も受け付けているようだ。それだけ利用している人が多国籍なんだろうな……。
入店してみると、衣類自体のクォリティはそこそこ。とくにこれといって欲しい物も見つからないので、店を出る。シャツ・メイカーと銘打っているので、ビスポーク・シャツもやってるのかな?聞いておけば良かった……。

RYDER & AMIES

ケンブリッジの学生さん御用達のショップ、「RYDER & AMIES」。靴下とシャツのお店と書かれておりますね。シャツ、レジメンタルタイだけでなく、チルデン・セーターとロゴ入りトレーナーを前面に押し出したディスプレイが、いかにも英国のカレッジです。
RYDER & AMIES

RYDER & AMIESのディスプレイ。
RYDER & AMIESの地図。


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さらに歩くと、今度はイード&レイヴェンスクロフトも見つけ、またも入店。う~ん、高級感があって、緊張するなあ。
お店の隅に、靴を見つけたので手に取る。ライニングに小窓を空けたりして、エドワード・グリーン製のように見せかけている。この靴は、どこ製なのか?
「これはチーニー製だ。チャーチの仲間だ。良い靴だよ」
いかにも英国紳士な初老の店員さんが答えてくれる。やっぱりチーニーか……以前に日本でも、イード&レイヴェンスクロフトネームのチーニー、扱われていたよなあ。
「バーリントン・アーケードにあるエドワード・グリーンのショップには行った?素晴らしい英国靴だよ。ロブはとても高いけど、このロブも素晴らしい靴だ」
「ここのビスポーク・スーツはいくらぐらいするんですか?」
「ビスポークは高いぞ。オールハンドメイド、カッティングだ。2,000£するぞ。とても高い」
そんな会話をしながら店内を見学する僕。ちなみに、ここの既製スーツ+替えトラウザースは550£、既製コートは395£、シャツは59£~、ネクタイは45£~との事でした。
お店を出ると暗くなってきた……本当はもう少し散策したいところだが、そろそろ戻るか。あー、もっと時間に余裕を持って来れば良かったなあ……。でも、来て良かった!
イード&レイヴェンスクロフト

ケンブリッジのイード&レイヴェンスクロフトの店舗。ロンドンのサヴィル・ロウ近くにもありますね。
イード&レイヴェンスクロフト

イード&レイヴェンスクロフトのディスプレイ。
イード&レイヴェンスクロフト、ケンブリッジ店の地図。


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ケンブリッジ
徒歩で駅へ向かうが、日本と比べると街灯は少なめ。ちょっと危なさそう所もあって、恐い。
ケンブリッジ駅近くのネットカフェにて、少しばかりインターネット。靴談話帳の書き込みも行う(笑)。ネットカフェには、少し日本人もいた。お店の人は、ネットの料金を少しオマケしてくれた。ありがたい。そして、ロンドン行きへの電車に乗った僕でした。
11月4日 - フォスター&サンへ! -
「ロンドンには仕事で来てるの?」
宿で朝食を食べていると、そこで勤めているお兄さんからそう聞かれる。
「いえ、観光です」
「ふ~ん、そうなんだ。君、金持ちだろ」
などと、とんでもない誤解を受ける。先日、竹下さん製のスーツを着て出かけたから、そう思われたのかしら?
「いやいや、全然!そんなお金持ってないっすよ」
キッパリと否定する。金持ちなら、ここみたいな安宿に泊まらないですよ~。とも言いたかったのだが、さすがに失礼なのでやめた。

さて、今日は竹下さんに仕立てて頂いたスーツと、肌寒いのでコートも着て出かける。ポール・スミスに行った時は、スーツだけ着て行ったんだよね。
宿を出たのは10時頃。……今日はミッション第2弾の日………
フォスター&サンで靴のビスポークだっ!!!

とは言っても、アポイント時間は14時。まだまだ時間があるので、ピカディリー・サーカス駅から、ロンドンのショッピング・ストリートを見学に行く。まずは早速、ジャーミン・ストリートへ。アポイント時間に遅れないよう、フォスター&サンの場所も確認しておきたかったのだ。ポール・スミスでは、約束の時間に遅れちゃったし。
立ち並ぶお店に一つずつ入って、店内を見学。やっぱりどこも、お客さんはたくさん入ってるなあ。そして、チャーチ、TM.ルーウィン、トーマス・ピンク等、モダンな雰囲気のショップも結構ある。伝統を重んじるロンドンとは言っても、やっぱり、こういうものなんだろうな……。

「おい君、ネクタイが曲がってるよ」
ハケットでは、お店のスタッフさんに突然そう声をかけられる。スリムな体格の、黒人のお兄さんだ。
「えっ、そう?」
「ああ、ちょっと来なよ」
スタッフさんは僕のネクタイの結び目に手をやり、ササッといじる。
「ほら、これでカッコ良いぜっ」
「あ、ありがとうございます」
おお、馴染みでもない、初めて来た客なのに、このフレンドリーな接し方。これが英国流かあ~。外国に来たってカンジがするぜっ!
「良い靴履いてるじゃない」
「ありがとうございます。クロケット&ジョーンズです」
日本を発つ前に、わざわざ気合を入れて、井上源太郎さんに磨いてもらったかいがあったのである(笑)。
「おお、そうかい。クロケット&ジョーンズならウチでも扱ってるよ。そこに置いてある」
お店の隅を指すスタッフさん。とは言っても、ここで買い物をするつもりはないので、店内を軽く見て外に出る。何しろ悲しいのは……僕だとサイズが合わないので、試着すらできない事ですな。

さらにジャーミン・ストリートをずんずん歩いて行くと、うおお、見つけた!フォスター&サンだ!ここかあ!
むう~、あと3時間後には、僕はここでビスポークしているのか…………ビスポークしたいと思い焦がれつつ、はや5年。長かったなあ。ムシジロウさんがジョン・ロブで注文する数日前は、こんな心境だったのだなと、今、その気持ちがよ~く分かる。はやる気持ちを抑えて、お店を外から見回し、ササッと通り過ぎる。何しろ、今日の14時にアポイントメントをとってあるのだ。あまりお店の前をウロウロしすぎて、店内にいるスタッフさんと目が合って、「中へどうぞ」なんて声をかけられたら決まりが悪い。お楽しみは、14時までお預けさ!

さらにウィンドゥ・ショッピングを続ける僕。トリッカーズでは、噂には聞いた事があるトリッカーズのビスポークの案内を発見。値段が750£~って、ロンドンのビスポーク・シュー・メイカーにしては激安!チャールズ皇太子がトリッカーズの愛用者である事は知られているが、このチャールズ皇太子が履いているのは、トリッカーズはトリッカーズでもビスポークだそうな(既製も履いてるのか?)。確かここのビスポークって、年に2回しか受注会は開かれないそうですね。

そしてジャーミン・ストリートを抜け、左に曲がると、そこにあるはジョン・ロブ!かねてから聞いていたとおり、こじんまりとした店舗。ディスプレイも簡素なんだけど……う~ん、やっぱり風格を感じる。敷居が高いぜっ。でも、勇気を出して入店する。ここまで来て、ジョン・ロブに入らないわけにはいかないのだ。
で、店内だけど……すごく緊張する。客から職人さんが見える作りになっているのも、「こりゃ、粗相はできねえ」と、なお緊張感を増大させる。しかも職人さんの数多いし……。
ぎこちなくサンプル・シューズを見ていると、日本語で声をかけられる僕。
……え?ジョン・ロブに日本人!???

過去に大川バセット由紀子さんが在籍していた事は聞いていたけど、今はもう退社しているはず。
さらにもう一人、日本人スタッフさんがいるとは!知らなかった。フォスター&サンの松田さんといい、凄いじゃないか、日本!!
このスタッフさんのお名前は豊永映恵(あきえ)さん。ジョン・ロブではクリッキングを担当されているそうだ。日本人職人さんがいる事で、何となく気持ちも軽くなる。豊永さんに店内の撮影許可を頂き、サンプル・シューズや店内の様子を撮影しまくる僕。

………あ、僕、「粗相はできねえ」と思ったはずなのに、かなーり粗相な事してるわ……。

この時は昼休み中ではあったものの、豊永さんは忙しそうにしておられ、僕の応対をするのは迷惑だったかも……すみませぬ………。豊永さんから伺った話は、こちらのページ作成にすごく役立ったのでした。豊永さん、ありがとうございました!

続いて、サヴィル・ロウなども見学する。スーツの聖地という事で、旧き良き時代の雰囲気を想像していたのだが、ジャーミン・ストリート同様、ここもモダン化されている様子。既製服を扱っているお店も少なくないし。でも、アンダーソン・シェッパードはやはり緊張したなあ……ものすごーく緊張したせいで、すぐにお店を出ちゃったけど。
ちなみに、このアンダーソン・シェッパードも、現在はサヴィル・ロウから移転して、お店の内装もモダン化されたそうですね。僕が行ったのは移転直前だったそうで、そんな時期に訪問できたのはラッキーでした。

そうブラブラしているうち、ショウ・ウィンドウに映る自分の姿を見て、あれ?と思う僕。

ネクタイ曲がってるぞ………。

ただ曲がっているんじゃなくて、かなり捻じ曲がっている。さっき、ハケットの店員さんが直してくれたんじゃなかったのか?いや、ハケットの店員さん、わざとこんなに曲げたのかなあ?ハケットの店員さんが僕のネクタイに手をやった時、どう直したのか、僕は鏡でチェックしてなかったのだ。う~ん、この曲がり具合が英国流なのか?それともあの店員さん、意地悪でこんなに曲げたのかあ?はたまた、直してくれたのに、また曲がってしまったのか?でも、また曲がるにしても、こんなに捻じ曲がらないだろう。う~ん、よく分からない………。とにかく、こんなに曲がっているのは本意じゃないので、ショウ・ウィンドウを頼りに自分で直す。………何となく情けない。

プリンセス・アーケイドにあるワイルド・スミスは既に閉店しており、もぬけの殻になっているのが寂しかった。

トリッカーズ、ビスポークの案内

トリッカーズのビスポーク案内。
もぬけの殻になったワイルド・スミス

もぬけの殻となったワイルド・スミス。
色んなお店に出たり入ったりしているうちに、時間はもう13時50分!フォスター&サンのビスポーク、約束の時間までもうすぐだ!慌ててフォスター&サンへ引き返す僕。いよいよだなあ……。
入店前に、まずはショウ・ウィンドウを撮影。注文してお店を出た後に、ショウ・ウィンドゥをパシャパシャ撮影するのはなんだかバツが悪いと思ったためだ。そして時計を見ると……
14時ピッタリ。よーし、ついに時は来た。いざ入店だっ!!!

※ フォスター&サンでの注文の様子はこちらになります。

フォスター&サンでは、スタッフの皆様、とても仲が良さそうで、和気あいあいと仕事をされていたのが印象的でした。
お店を出る前に、松田さんに「ジョージ・クレヴァリーとシュニーダー・ブーツの場所を教えて頂きたいんですけど……」と厚かましい質問をする僕。
するとなんと、松田さんはわざわざシュニーダー・ブーツまでの地図を書いて下さいました!う~ん、親切心が嬉しい!ありがとうございました。そして、ジョージ・クレヴァリーへの店舗へは、さらにありがたい事にフォスター&サンのセールス担当、ジョンさんが途中まで送って下さるとの事。
「そこまでしてもらって大丈夫ですか?僕、ジョージ・クレヴァリーで注文するわけでもないんですけど……」
親切心に恐縮しまくる僕だが、松田さんは大丈夫と、快いお返事。なので、お言葉に甘えて送ってもらう事に。松田さんが丁寧に見送ってくれつつ、ジョンさんと外に出る僕。
「この信号を渡って真っ直ぐ行って、その通りを左に曲がればジョージ・クレヴァリーさ」
ピカディリーの通りに出て、信号前でそう案内してくれるジョンさん。そして最後に、握手をしてお別れ。
このジョンさんも、現在は引退されたとの事。僕にとって、ジョンさんとの数少ない思い出でした……。

その後、僕はジョンさんの案内に従ってジョージ・クレヴァリーに行ったり、松田さんが書いて下さった地図を頼りにシュニーダー・ブーツに行ったりと、ず~っと繁華街を散策。
結局、昼食どころかお茶をする事もなく、まったくの休憩なしでロンドンのショッピング・ストリートを歩いていた。立ち止まるのがもったいなくて、もう夢中だったのだ。
そのせいか、18時すぎに宿に帰ると、電気も点けっぱなしでそのまま眠りについてしまった。考えてみれば、日本を発つ前もほとんど寝ていなかったし、我ながら相当疲れてるんだなあ。







11月10日以降から完結までは、Kindleストアより、電子書籍にて発表致しました。皆様、よろしければ、右記より、是非ご覧下さい。
Kindleの電子書籍は、Kindle専用端末はもちろんの事、PC、タブレット、スマートフォンにてご覧頂けます。それぞれの機種に合わせて、アプリ(無料)をダウンロードされてご利用下さい。
「ヨーロッパ靴服風来行」


Shoes top

※ この作品はノンフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、すごく関係あります。
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