ロンドンの注文靴店 フォスター&サン注文報告
Bespoke report at London FOSTER & SON |
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僕がフォスター&サンで注文した理由。それはまず、英国のクラシックスタイルが欲しかったから。これぞ"英国靴"、まさに"英国靴"と言える代物が欲しかったのだ。そして、ロンドンのビスポーク・シュー・メイカーで、その英国のクラシックを最もよく知っているのは、やはりテリー・ムーアさんではないか?と僕は思ったのである。2004年で70歳になるという。キャリアが違う。何しろ職人歴は半世紀以上。僕の思う"英国のクラシック"の時代から活躍されていた、数少ない職人さんだ。 そしてもう一つ、僕の聞きかじりの知識によると、ビスポーク・シューズにおいては、ラストメイキング能力が出来を大きく左右するらしい。となると、やはり優れたラスト職人にお願いしたい。ロンドンに著名なラスト職人はたくさんいらっしゃるが、やはり長年、第一線でご活躍されているテリー・ムーアさんの実績と経験にかけてみたかった。 というわけで、僕は04年11月4日14時に、ついに念願のフォスター&サンへ乗り込みました!!以下から、そのご報告になります。画像とともにどうぞです! ※ 1・4〜10・12・18〜23・25〜30枚目の画像をクリックして頂ければ拡大画像が出ます。また、画像の一部はKAさんよりご提供頂きました。KAさん、どうもありがとうございました! |
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ショウウィンドゥに飾られている靴。左奥には、ポール・ニューマンにフレッド・アステアのラストがあります |
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ホワイトハウス・コックスの革小物も販売されております。 |
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ショウウィンドゥにある靴を満足いくまで眺め回した僕は、いざ!とばかりにフォスター&サンに入店!店内は格調高く、なんだか落ち着かない……。 軽く店内をウロウロして、ビスポークのサンプル・シューズを眺める僕。やばい……美しすぎてため息が出る。 |
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なんと!ライトスタンドがブーツになってます。ファニ〜! |
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お店の人に声をかけ、今日の14時にビスポークの予約をしていると伝える僕。すると、お店の2階から、フォスター&サンの日本人スタッフ、松田笑子(えみこ)さんが降りて来て下さいました。 「今日はよろしくお願い致します」 お互い挨拶をしていると、テリー・ムーアさんも2階から降りて来た……。ついに念願!僕にとって生まれて初めて!靴のビスポークです! まずはテリー・ムーアさんによる足の採寸からでした。 「いつも、このくらいの厚さの靴下を履くの?」 テリーさんに質問される僕。 「はい」 僕は立位でノートの上に足を乗せ、足の周りをペンでなぞっていくテリーさん。続いて、土踏まずにペンを入れて、踏まずのラインも書いておりました。 「きれいな足(の形)をしてますね」 松田さんが言う。今まで言われた事がなかったので、ちょっと嬉しい僕。靴も、綺麗なフォルムが期待できるかな?と、少し期待してしまう。 次に、甲周りなどをメジャーで採寸。さらにテリーさん、甲に手を乗せて、甲の形状を確認。最後に、僕の履いていた靴の内部をまじまじと観察しておりました。おそらく、インソールがどう沈んでいるのかを見ていたのだと思われます。 以上、採寸はとくに時間はかからず、アッサリと終了しました。 |
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僕の右足測定図。 |
同じく、左足の測定図。 |
上の測定図で、くるくると描かれている楕円は甲の高くなっている位置、右足の「く」の字、左足の「S」字は、甲の形状を表しているようです。 測定図を撮影してると、テリーさんからは、「ちゃんと撮れたか?」「(靴製作の)仕事が欲しいんじゃないだろうな?」と言われました(笑)。 テリーさんは以前に何度か、日本でビスポークの受注会を開いていた事があります。その際に分かった事は、日本人は小指の付け根だけでなく、小指の第一関節まで当たる傾向があるとの事。これにより、テリーさんは自らのラストに改良を加え、日本人向けのラストを作り上げたとの事です。 「既製は履いてから沈んで、各々の足底になじんで行きますが、ビスポークの場合は既に底が個々に合わせた曲線で作られています」 ビスポークと既製の違いを、そう説明して下さる松田さん。あと、テリー・ムーアさんのラストの特徴として、「シャープコーナー、シャープライン(角)がありません」とのこと。全体的にエッジが立たず、丸みのあるフォルム……ということでしょうか。 |
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ルーム・シューズに用いられるベルヴェット等の素材では、上のような刺繍も入れられるそうです。 |
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こちらにはヘンリー・マックスウェルで使用されていた、刺繍のサンプルが飾られております。 |
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「試しに作ってみた」というヘンリー・マックスウェルの既製靴が20%オフでセールとなっておりました。もう、今は売られてないかな? |
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さて!続いてはデザインの打ち合わせです。 まず僕は、注文する靴のスタイルをどうしようか迷っていた。ごく普通のパンチド・キャップトウにするか、今や稀少品となったスタッグ・スウェードを用いてチャッカ・ブーツにするか、である。 「スタッグ・スウェードはあります?」 松田さんに聞いてみる僕。 「スタッグは……もうないんですよ。似た風合いのスウェードはあるんですが」 残念なお答え。ないものは仕方ない……これで、僕の心は決まりました。 「では、ごく普通のパンチド・キャップトウを下さい。細かいところは、フォスター&サンのハウススタイルにお任せします」 僕がポール・スミスでスーツを注文した時と同様、極力お任せにする事により、「フォスター&サンらしさ」を存分に発揮して欲しかったのです。そうする事で、「英国靴らしさ」が引き出せると思ったのですね。 「このスタイルだと、ベヴェルド・ウェイストに、ソール(の厚さ)はクォーターが一般的ですね」 「英国のクラシックが欲しいので、それで問題ありません」 松田さんからそう提案を頂いた僕は、当然了承。さらに僕から、好みのフォルムについて説明しておく。 「最近の長すぎるノーズは、クラシックではないですよね……。変に長いノーズは間の抜けた印象を受けるので、僕は好きじゃありません」 ノーズが長くなりすぎるのを嫌って、そのように念押ししておく。長すぎるノーズって、「鼻の下伸ばしたエロおやじ」に見えて、カッコ悪く思うのは僕だけでしょうか? 「トウラインは、このスマート・ラウンドトウでいいですか?」 サンプルの一つを手に取り、僕に確認する松田さん。他にラウンド系のトウラインは、オーヴァルトウ(=エッグトウ)、ラウンドトウと、3種類あるらしい。この松田さんの言う、スマート・ラウンドトウがもっとも細いラウンドのようだ。 お店側の提案には言いなりになるのが、今回の僕の基本的な注文姿勢。当然了承。 |
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スマート・ラウンド・トウのサンプル。 |
オーヴァル・トウ(=エッグ・トウ)のサンプル。 |
ラウンド・トウのサンプル。 |
スマート・チゼル・トウのサンプル。 |
スクエア・トウのサンプル |
クラシックなボタン・アップ・ブーツ |
続いて、ヒールについて。 「何も指定がなければ、ダヴ(楔形ゴム)になります。ですが、オールラバー、レザーのピン打ち、フィリップスもできます」 僕は以前から試してみたかったフィリップスで注文。噂に聞く、フィリップスの耐久性を体験してみたかったのだ。アウトソールの仕上げは、半カラスでお願いしました。 そして僕からも、少し意見を言ってみる。 「6アイレットにしたいんですけど……」 アイレット多め=クラシックという概念が、僕にはあったのだ。 「6アイレットはできますが……、テリーのパターンの場合、ここの長さ(レースステイ)を変更しないんですね。通常、5アイレットの所を6アイレットにするので、デザイン的にうるさくなってしまうかもしれません」 松田さんからご意見を頂く。そうか……バランスが崩れてしまうのは避けたいなあ。なので、5アイレットで了承する。 「あ、ちゃんと僕用に、パターンを起こして下さるんですか?」 「そうですよ」 実は以前に、ロンドンの某ビスポーク・シュー・メイカーでは、「客それぞれにパターンは起こさず、ブロック・パターンを乗っけるだけ(サイズごとの調整はあるんでしょうけど)」と聞いていたのだ。しかし、フォスター&サンでは、ちゃんと客ごとにパターンを起こしてくれるとの事。なんだか嬉しくなってしまう僕。 「ヒールはピッチド・ヒールで……」 せっかくドレッシーなスタイルの靴を注文するのだから、華奢に見せようと、そんな提案をしてみる僕。ところが、松田さんは言う。 「ピッチド・ヒールはテリーは好まないんですよ……。女らしいということで。テリーは男らしい靴を好みます」 そう言えば、ロンドンで修行経験のある某靴職人さんも似たような事を言ってたっけ……。あの人の話は本当だった。 ただ、実際に作業を行う職人さんによってヒールの仕上がりは変わってくるそうで、何も言わないと、微妙なピッチド・ヒールで出来上がる可能性もあるそうです。 「じゃあ、通常のヒールでお願いします」 「いいんですか?ピッチド・ヒールもできますよ?」 「はい、問題ありません。通常のヒールでお願いします。僕はフォスター&サンの靴が欲しくて、ここに来たんです」 アイレットといい、ヒールといい、僕がこれまで持っていたスタイルの概念が、見事に打ち壊された日でした。良い勉強になりました。同時に、このような注文の仕方では、僕が本当に欲しい靴は何なのか、僕自身がよく分かってないまま注文してる、愚の見本ですね。お恥ずかしい限りです。 でもこれで、フォスター&サンが解釈する、英国のクラシックは手に入れる事ができると思う……。どんな靴ができるか、楽しみです。 それにしても……、僕は二日前に、ポール・スミスにてスーツをビスポークして来たわけですが、その時と比べて日本語が使える分、注文するのが本当に楽。ビスポークにおける、話し合いの大切さと難しさを再認識です。応対して下さった、松田さんに感謝! |
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コレスポンデント・シューズのサンプル。 |
色合わせが絶妙!のコンビシューズ |
ヴァンプ、ストラップ、タンと、それぞれクロコの斑の大きさを変えた端整なデザイン!上にある、オーヴァル・トウのサンプルと同じものです。 |
今では珍しい、ライディング・ブーツ用のスパー(金具)。すべてアンティークで、よく見ると細かいデザインが彫られています。こちらはヘンリー・マックスウェルからのプロパティで、最も価値のあったものの一つだそうです。現在、スパーの使用は禁止となっているとの事。 |
ひととおり打ち合わせが終わったので、注文書を書いていく松田さん。それを見て、「あれ?」と思う僕。 「あのー、どーでもいい事聞いちゃうんですけどお……、松田さんって、サウスポーなんですか?」 松田さんは、ペンを左手で持っていたのだ。 「そうなんですよ〜。職人に左利きって多いんですよ。でも左利きって、それ用の工具がなくって大変なんですよね」 ふーむ、そう言えば、江川治さん(元ギルド・オブ・クラフツの名職人、現在は独立)、早藤良太さん(ジョージ・クレヴァリーとクロケット&ジョーンズ・パリにて修行した靴職人)に、黒木聡さん(ジョン・ロブ・パリのクリエイティヴ・ディレクターであり、ロンドンのビスポーク・シューズのアウト・ワーカー)も左利きとの事。ただの偶然かもしれないけど、職人さんの腕前に、何か関係があったりするのかしら?一般的に、左利きの人は右脳が発達していて、感性に優れてるといいますよね。 |
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僕の注文書。 |
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この時点で、引っかかる点があった。まだ、アッパーに使う革の選定をしていないのだ。 「あのー……、すいません、革を選ぶ事はできないんでしょうか?」 「あっ!いえいえ、できます、できます。てっきり、黒でいいのかと思ってました」 やっぱり、ドレス・シューズは黒が基本の様子。英国だと、なおさらそうなのかな? 「できれば、焦げ茶色がいいんですよね」 「それなら、オススメの革があります。2階に置いてありますので、見てみて下さい」 そう言って、僕を2階に連れて行って下さる松田さん。見せて下さった革は、"ブラック・コーヒー"と名の付いた焦げ茶色。理想どおりの色だったので、この革でお願いする。 「良い革ですか?」 などと、いかにも靴オタクな、馬鹿な質問をしてしまう僕。 「カール・フロイデンベルグです」 とのお答えでした。 そして最後に、松田さんのご好意で、ワーク・ショップ内も見学させて頂きました。松田さんをはじめ、スタッフの皆様、お忙しい中、どうもありがとうございました! |
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お店の2階にあるワーク・ショップ。ワーク・ショップ内ではラストとパターンの作成が行われ、他の作業は外注になります。左で作業されている方は、テリーさんとともにラストメイキングを担当するミッキーさん。ミッキーさんは、テリーさんも認めたラストメイキング能力の持ち主との事です。 |
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ラストメイキングとパターンメイキング担当。ロンドン注文靴業界の重鎮、テリー・ムーアさん。ジェイソン・エイムスベリー氏や、ジョン・ロブのウィリアム・ロブ氏もラストメイキングについて相談に来ると言う、名職人です。現在は高齢もあって、週2回のパートタイム勤務との事。 ちなみに、テリーさんがラストメイキングを教える際は、片足をテリーさんが作り、もう片足を「おまえが作れ」というやり方だそうです。 |
テリーさんと同じくパートタイム勤務で、クリッキング担当のエミリーさん。 「僕の注文した靴も、クリッキングしてくれるんですか?」と聞きましたら、「最高の仕事をします」と頼もしいお答え! |
ラストのストック・ルーム。その量にはただただ、圧倒されるばかり! |
「ここには有名な政治家や……殺人者のラストがたくさんあるぞ!」 とは、テリーさんのジョーク! |
この日、松田さんが履いていたビスポーク・シューズ。フォスター&サンの3tieダービースタイルを再現したそうです。フォスター&サンはレディースもバッチリ!? |
6年ほど前(つまり98年かな?)にフランスで作らせたという、フォスター&サンネームのシュー・ポリッシュ。今は生産していないそうなので、記念に購入しました(笑)。匂いをかいでみたところ、サフィール製のようです。お値段は2.5£でした。 |
なお、ビスポークの料金は1,500£でした(現在は1,550£〜に値上がりしております)。僕はまず、ディポジットとして半金の750£を納めました。納品時には、免税もして下さるそうです。 そしてシュー・トゥリー代は、3ピース式が300£(現在は320£)、蝶番式が250£。僕は見栄えする、3ピース式を選びました。昔から、「いつかビスポークする時には、シュー・トゥリーは絶対に3ピースにするぞ!」と心に決めていたのです。だって、カッコ良いじゃありませんか! 仮縫いまでの期間は3ヶ月との事でした。 |
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ミーハーな僕は、厚かましくも店内で記念撮影!右が"生きた伝説"と知られるラスト・メイカー、テリー・ムーアさん。左がその愛弟子、松田笑子さん。中央が僕(山下大輔)です。 松田さんは7年前(04年11月時点で)に、イギリスの靴学校、コードウェイナーズ・カレッジに入学。当初はハンドメイド・シューズに興味はなく、レディース靴のデザインを学ぶのが目的だったそうです。しかし、次第にハンドメイド・シューズの素晴らしさに目覚め、現在のような職人になったとの事。これは修行中に出会った、テリー・ムーアさんの影響が非常に大きかったそうです。 「テリーは自分を娘のように良くしてくれる」 松田さんはテリーさんを大変尊敬されているご様子でした。 そして3年前から、松田さんはフォスター&サンの店頭に立つようになったとの事。松田さんはフォスター&サンにおける制作の進行監督を務め、他にも日本人客の応対、底付け作業、ラストメイキングも手伝ったりと、多忙な日々を送られています。 |
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