11月5日 - ノーザンプトンの革問屋 -
8日にはこのロンドンを離れて大陸に向かう僕だが、また年末に戻って来る予定。しかし、その年末でのロンドンの宿が決まっていないので、朝食時に、宿のお兄さんにお願いして、その年末分の予約もしておく僕。この宿は狭くて、特別気に入っているわけでもないのだが、また新たに別の宿を探すのも面倒なのだ。

さて、今日は金曜日!ノーザンプトンのファクトリー・ショップがどこも開いている日なので、当然のごとくノーザンプトンへ向かう。手には雑誌、「シューフィル」の2001年秋晴号。靴職人の黒木聡さんによる、ノーザンプトン特集が載っているのだ。
到着したノーザンプトンだが、どうやってファクトリーまで行こうかなと考える僕。貸自転車屋さんを利用しようかと思い、駅前で人に聞いてみる。
「貸自転車屋?ここからは遠いよ。(貸自転車屋までは)タクシーで行った方がいい」
げげっ!タクシー使うんじゃ、貸自転車屋を使う意味がないぜっ!何しろ僕は貧乏旅行者。お金を極力節約したいのだ。
迷った挙句、徒歩で移動する事にする。地図を見る限りだと、ファクトリー・ショップへは30分も歩けば着きそうだ。散歩自体好きだし、ノーザンプトンの風景、空気を楽しみながらファクトリーショップを巡るのも良いじゃないの!

駅から少し歩いたところに、靴の激安ショップがあった。やはり靴の街なんだな……。
ノーザンプトンの安売り靴屋

ノーザンプトン中心街にある、靴の激安ショップ。高級ブランドはありませんでしたが、かなりお客さんで賑わっておりました。
ノーザンプトンのマーケット

道中にあるマーケットにて、アメを50ペンス分買い、それを舐めながらファクトリー・ショップに向かう。
ノーザンプトン

ノーザンプトン中心街を抜け、いざ、ファクトリー・ショップへ!
トリッカーズの工場

最初に着いたのはトリッカーズ。なかなか見つからないので、途中、地元の人に、「トリッカーズの工場はどこですか?」と聞いてましたら、答えは「知らない」でした。そこそこ大きい工場ですが、そんなに有名じゃないのが、実情なのかな?
ファクトリー・ショップの入口はこじんまりとして分かりにくく、辺りをウロウロしてしまいました(笑)。




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トリッカーズの工場内

工場内の様子が少しばかり見えて、なかなか面白い。
トリッカーズの工場内

こらちも、トリッカーズの工場内。
さて、ここで欲しかったのは定番のウィングチップ・ブーツ。しかし、棚には置いてない。やっぱり人気の品だけあって、アウトレットでもすぐに売れちゃうのかな……?とりあえず、店内のスタッフさんに聞いてみる。
「ウィングチップ・ブーツはないんですか?」
「ん?ブローグ・ブーツの事か?」
「あ、はいはい、それです!」
「んーと、君のサイズは?」
「6か6ハーフです」
するとスタッフさんは、別室から僕のサイズのウィングチップ・ブーツを、2つほど出して来てくれた。だが、欲しい色じゃないし、アウトレットだけあって傷もある……。さりげない程度の傷ならいいんだけど、そこそこ目立つ引っ掻き傷なんだよな、これが。
「磨けば平気だよ」
傷について、スタッフさんはあまり気にしていない様子。
安いだけに買おうかどうか迷ったが、結局試着したのみで終わってしまった。何しろ、買ったら結構重い荷物になる。後悔する可能性のある買い物は避けたいのだ。店内の撮影許可は頂いたので、写真だけ撮って店を出る、相変わらず迷惑な僕。

それにしても、ノーザンプトンはのどかな町。散歩にも良いと思う。公園もきれいだ。
ジョン・ロブのファクトリー・ショップ

続いて到着したファクトリー・ショップはジョン・ロブ。工場前をウロウロしていたら、たまたま通りすがった従業員の方が、僕を中へ招き入れてくれる。う~ん、日本人客慣れしているのかな?(笑)。
「何が欲しいの?」
中に入ると、店主のおばさんがそう聞いてきて、積極的に販売して下さる。僕はマッタが欲しかったのだが、あいにくないとの事。そのかわり、「これならどう?」とばかりに、おばさんはジャーミンⅡや、ウィリアム似のダブルモンクなどを出してきてくれた。しかし、どれも欲しいわけではないので、丁重にお断りする僕。
このショップで販売されている靴は、トリッカーズよりずっと多い。やはり、エルメス傘下だけあって検品も厳しく、結果としてアウトレット品が多くなるのだろうか。だが、残念なことに人気モデルは極めて少ない……マイサイズとなると、なおの事少ない。
トリッカーズに続いて、ここでも購入は諦め、店内を撮影しただけにとどまる僕。




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ジョン・ロブのファクトリー・ショップ内

ジョン・ロブのファクトリー・ショップ内。
ジョン・ロブのファクトリー・ショップ内

左に同じく。
「またね!」
最後におばさんにそう声をかけられ、ファクトリー・ショップをあとにする。ここのおばさん、なかなか話しやすい、気さくな方でした。

さて、来た道を引き返し、僕が向かった先は……革問屋さん、
「A.&A. CRACK & SONS」だっ!

雑誌、「シューフィル」によると、この問屋さんはロンドンのビスポーク・シュー・メイカーにも、革を卸しているそうだ。先日、僕はフォスター&サンでビスポークして来たわけだが、そこでは欲しかったスタッグ・スウェードはなかった。当然、フォスター&サンもこの問屋さんは知っているのだろうけど、万が一の望みをかけて、ここでスタッグ・スウェードが発見できれば……と思ったわけです。もしかしたら、お店に卸せるほどの量はなくても、一足ギリギリ作れるだけの、量はあるかもしれないじゃん!



A&Aクラック&サンズ

そういうわけでやって来た、クラック&サンズ。お店のドアは鍵がかかっている……が、インターフォンがあるので、とりあえず押してみる。
「はい?」
インターフォンはすぐに出た。
「すいません、革を見せてもらえませんか?」
「いいよ。1階(日本で言う2階)においで」
鍵がかかっている割には、アッサリと入店了承。ドアを開けて頂き、2階に通される僕。社屋内は広々としていて、たくさんの革が積まれている。
クラック内

クラックの中。
クラック内

ビスポーク・シュー・メイカーが使用する、上等の革ばかりです。
「で、何が欲しいんだい?」
従業員の方が言う。思っていたよりも、ずっとウェルカム・モードだ。
「靴用の革が欲しいんですけど……」
「それなら、そこにあるよ。カール・フロイデンベルグだ」
棚の上を指す、従業員のお兄さん。おお!いきなりカール・フロイデンベルグが!
「おいくらですか?」
試しにきいてみる。
「7£」
ふ~む、7£か……これは1デシあたりの価格なのかな?とある方から聞いた話だと、靴一足作るのに必要な革は約60デシ。ただ、海外だと「スクエア・フィート(約9.3デシ)」という単位もあるそうなので、この7£は1スクエア・フィートあたりの価格かもしれない。
しかし、僕が欲しいのはスムース・レザーではない。スタッグ・スウェードなのだ……。
「スタッグ・スウェードはないんですか?」
「???え、何?スタッグ?」
従業員さんは首をかしげる。僕の発音が悪いのか、またはスタッグ・スウェード自体の取り扱いがないのか、従業員さんは、「何それ?」といった表情。仕方がないので筆談を試みるが、それでも分かってくれない。なぜだ……ちゃんと「stag」と書いたのに。だが、とりあえず従業員の方は、僕がスウェード素材を欲しがっている、というのは分かってくれた様子。
「ふん………どんな色が欲しいの?」
「メイプル」
「よし、それじゃあ上に来い」
そう言って、従業員のお兄さんは、僕をさらに上の階へ案内してくれる。するとそこには、スウェード素材がたくさん積まれている棚が!喜び勇んで、その棚を早速見せてもらうが、残念ながら、そこにもスタッグ・スウェードはない様子……。やはり先日、フォスター&サンの松田さんが言っていたとおり、スタッグ・スウェードはもう無くなってしまったのか……。
懲りずに、何度も「スタッグ・スウェードはないの?」と聞いてみる僕だが、依然としてまったく通じない。僕の発音、そんなに悪いのかしら?あまりにも僕がしつこいので、従業員さんもだんだん苛立ってきた様子。どうも僕のような、要領を得ないうえ、英語もろくに話せない奴が厄介のようだ。
「君、どうやってウチらの事知ったの?」
従業員さんは、半ば呆れ顔。
「あ、この雑誌を見たんですけど……」
僕は鞄から「シューフィル」を取り出し、クラックが載っているページを開いて、従業員さんに見せる。
「……ん…………?」
何だよこれ、と言わんばかりの表情で「シューフィル」を手に取る従業員さん。そして次の瞬間、その顔つきが一変した!

「…………………………!!!!!!!!!!!!!!!」

怪訝な表情が、一瞬にして驚きへ。従業員さんはクラックの写真を凝視し、「信じられない……」といったようで、半分固まっている。そんな意外なまでのリアクションに、僕も驚いてしまう。
「あのー…………、すいません、やっぱり購入はやめます」
「お、おう、そうか」
僕の声で、従業員さんはハッと我に返った様子。従業員さんとともに、再び下の階へ降りる僕。
「おい、君、君、さっきの雑誌出して」
従業員さんは、まだショックが抜けきれていないようで、表情が未だにこわばっている。僕は言われるままに、「シューフィル」を見せる。
「おい、これ見てみろよ……」
従業員さんは、他の皆様にクラックの記事を見せる。覗き込む一同。一瞬の静寂が、辺りを支配する。そして………。

「ブァッヒャッヒャッヒャッヒャッ!」

建物中に響き渡る大爆笑!

「うおー!すげえ!ウチら載ってるよ!」
「これ日本の雑誌だろ!マジかよー!」
「俺たち、日本で紹介されてんのかよ~!グァヒャヒャヒャヒャ!!」
「ここに載ってんの、社長だろ!ブァヒャヒャヒャヒャ!!」

従業員の皆様、大はしゃぎの大喜び!どうやらクラックの皆様、日本で紹介されている事実をまったく知らなかった様子。ま、まさかこんなに喜んでくれるなんて……。僕が英語力がないばかりに、場の雰囲気は結構重かったのだが、このシューフィルの記事のおかげで、一気に打ち解けられた。ああ、シューフィルさん、ありがとう!!

まさかシューフィルも、こんな形で記事が役立とうなど、夢にも思うまい。←「ちびまる子ちゃん」のナレーション風(キートン山田)に読んでね。

もっとも、シューフィル誌上で、このクラックはそんなに大きく取り上げられていない。むしろ、かなり小さい記事だ。5㎝ほどの写真が、二つ掲載されているだけなのである。にも関わらず、この喜びようとは、クラックがメディアで紹介されるなんて、よっぽど珍しい事なのだろう。
「あの~、写真撮ってもいいですか?」
大はしゃぎしている従業員さんたちに、尋ねてみる僕。
「おお、いいとも!撮れ撮れ!」
すっかり機嫌が良くなった、従業員の皆様。
「Magazi~n!」
僕がカメラを向けると、そう声をあげて撮影に応じてくれる。表情は満面の笑みだ。良かった……「シューフィル」を持って来て、本当に良かった!
さらに僕が建物内を撮影していると、「君って、カメラマンなの?」と、勘違いされてしまいました(笑)。結局、僕が帰るまで、従業員の皆様は、ず~っと「シューフィル」の記事を眺め回しておりました。


チャーチのファクトリー・ショップ

クラックを出た頃には、もう日も暮れかかり。ノーザンプトンで最後に伺ったのは、ここ、チャーチのファクトリー・ショップ。店内では、韓国系と思われるアジア人の方が数名、買い物をしており、ちょっとびっくり。肝心の品物は、プラダ買収前と後が混在しており、中には73ラスト、224ラストも有。しかし、マイサイズではこれといったものもなく……ここでも何も購入せず。

結果としては、ノーザンプトンでは何も買い物しないで終わってしまった。でも、クラックでの出来事は楽しかった!良い土産話ができ、これだけでも、ノーザンプトンまで来たかいがあったというものだ!



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こちら↓はオマケです。僕は伺いませんでしたが、クロケット&ジョーンズのファクトリー・ショップの地図です。


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やがて、ロンドンに戻って来た僕は、マクドナルドで夕食をとる。実のところ、僕はマクドナルドがあまり好きではなく、日本で行く事はほとんどない。だが、物価の高いこのロンドンで、安価で食事できるのは嬉しいところだ。
その後はビスポーク・シュー・メイカーの、「ジェイムス・テイラー&サン」の場所を確認に行く。その帰り、ヴィタミンC補給のため、果物屋さんで蜜柑を買い、宿に帰ったのでした。




11月10日以降から完結までは、Kindleストアより、電子書籍にて発表致しました。皆様、よろしければ、右記より、是非ご覧下さい。
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「ヨーロッパ靴服風来行」


Shoes top

※ この作品はノンフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、すごく関係あります。
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