11月6日 - ポートベロー・マーケット -
朝、部屋にかけてある竹下さん製のスーツとコートをいじっていると……スコーン!

ハンガーの引っ掛ける部分が抜けて壊れやがった……まいったな。部屋に備え付けのハンガーは、安宿だけあって立体感のないハンガー。これにビスポークのスーツとコートをかけるには心もとない。今日、新しいのを買わないとなあ……。
無駄な出費は避けたい自分だが、日用品を現地調達するのも、長期旅行の醍醐味だったりするのかな、とも思う。これが短期旅行だったら、いちいち新しいのは買わないもんね。

午前中は、昨日場所を確認したジェイムス・テイラー&サンへ向かう。見学した際の詳細は、こちらをご覧になって下さい……。

ジェイムス・テイラー&サンを後にして、次に向かうは
ポートベロー・マーケット!せっかくのロンドンの土曜日なので、やはり路上マーケットは見ておきたいのだ。ノッティンヒル・ゲイト駅を降りると、人の流れに乗って歩く。ロンドンにはどんな掘り出し物があるか楽しみなのだ。

道中、ホットドッグを買って、それを食べながら徘徊する。服飾関係を中心に品を見ていくが……正直、アタリよりもハズレの方がはるかに多い。たまーに、良い具合にくたびれたバーヴァーやベルスタッフを発見したりもするのだが、大抵がもう着るには厳しいほどに着古してある。うーん、このとことん使う姿勢が英国なのかな?




ポートベロー・マーケットの様子。ポール・スミス・ウェストボーン・ハウスのすぐ近くにて撮影。
ポートベロー・マーケットでの革製品ショップ

露店をたくさん見ていると、革靴、革鞄、そして毛皮を扱っているお店を発見。路上マーケットでも、しっかりシュー・トゥリーを入れて販売しているのには感心してしまう。安い靴もあれば、高級靴もあり、チャーチをはじめ、グレンソン、アルフレッド・サージェントなどなど。特にチャーチは数足あり、どれもロゴに「MILAN」表記のない古い物。ユーズドとは言え、状態もまずまずだ。

「チャーチは良い靴だぞ。だから、値段もちょっと高い」
靴ばかり見ている僕に、店主のおじさんがそう話しかけてくる。
「君、ジョン・ロブは知っているか?」
「知ってるよ」
「そうか、ならそこにあるのがジョン・ロブだ」
「うわ、本当だ!………いくら?」
「50£」
「へえ~、うん、安い、安いですね」
既製とは言え、露店でジョン・ロブが売られているのは驚きましたねー。状態もそこそこ良く、50£でしたらかなりお買い得です。また、このお店ではJ.M.ウェストンもありました。高級靴の価格は30~50£に設定しているようですね。

ちなみにチャーチについては、このお店に限らず、マーケットではしばしば見かけました。やはり英国では、チャーチは高級靴の代表格なんだなーと感じさせられます。ポートベロー・マーケットで見た中で、チャーチの最安値は12£。もっとも、この場合は、かなり履き込まれていた状態でした(笑)。さらに別のお店では、テクニック、ジョン・スペンサー、Kシューズも見つかりました。
ユーズドのチャーチ

お店にあった「MILAN」表記無のチャーチ。
ポートベロー・マーケットでの日本語表記

日本語もたまに見かけたりして……。

その後、アジア系の方が経営するお店にて、ハンガーがやたらとたくさん売られているお店を見つける。ハンガーにいくつも目を通し、一番しっかり作られていそうなハンガーを一つだけ買う。僕はさんざんハンガーを見たにも関わらず、買ったのが一つだけだったので、お店の方は呆れて苦笑していました……。
スティーヴ・ベル

ポートベロー・グリーン・アーケイド内では「スティーヴ・ベル(Steve.Bell)」と言うビスポーク・テイラーを発見しました。サンプルも飾られていない、こじんまりとしたお店でしたが、店内では職人さん数名がせっせと縫製作業に勤しんでおられました。ビスポーク・スーツの価格はツーピースで550£~。
このポートベロー・グリーン・アーケイドはラドブローク・グローヴ駅近くにあるのですが、服飾関係のお店は、この駅を出てすぐの高速道路下に多かったですね。




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宿に帰って来たのは16時半ごろ。実のところ、僕はロンドンに到着してから何度も立ちくらみしていて、時差ボケだろうか、初めての長期旅行で疲れているんだろうか、足元がおぼつかない。僕は部屋のベッドに倒れこむと、なんと気付いたら深夜12時まで寝ていました。時計を見てびっくり。部屋の明かりは付けっ放し。う~んむ、やっぱり僕、思っていたより疲れているんだなあ……。

あまりにも中途半端な時間に寝て、持て余す時間に起きてしまった。しかも、何しろこんな形で寝てしまったので、あまり疲れが取れていない。無駄な時間の使い方をしたなあ。考えてみれば、夕食をとらないまま寝てしまったので小腹が空いている。
到着初日にも行った、チャイニーズ経営の深夜営業ストアへ行き、水とチョコレイト、プリングルスを買う。宿に戻ってそれらを食べ、1時間ほどぼーっとしたり、日記をつけたりした後、また就寝。
11月7日 - どうやら面白かったようだ -
朝食を食べ終えると、テレフォン・カードを使ってロンドン在住の友人に電話をかける。僕が年末にロンドンに戻って来るまで、荷物を預かっていて欲しいので、友人との待ち合わせ場所と時間を決めるためだ。

何でも友人によると、今日はチューブでストライキが起こっているため、一部路線の運行がストップしていると事。そのため、友人の住む、フラットの最寄り駅までは行けないそうだ。なので、比較的近い、リヴァプール・ストリート駅にて、17時に待ち合わせと決める。友人が言うには、ストライキでチューブが止まる事は、さほど珍しくないそうな。う~んむ、日本ではありえないなあ……。

思えば、以前にパリに行った時も、職員さんたちがストライキを起こして、ルーヴル美術館に入館できなかったもんです。欧州では、やはりこんなものなのかな。

この日もロンドンのマーケット巡りを予定している僕は、カムデン・ロック・マーケットへ向かう。マーケットに到着早々、少しお腹が空いたので、インディア料理の屋台にて、昼食を買う事にする。

「えっと、すいません、これ下さい」

店員のお姉さんに声をかける。やはりインド系なのか、肌は浅黒い。

「はい、他には何にする?あと二つつけて、全部で3品でこの値段だよ」
「あ、そうなの?じゃあ、これとこれも付けて下さい」
「……………はい、どうぞ!」
紙皿に料理を盛り付けて、僕に渡すお姉さん。

「ありがとう!」
「どういたしまして」

そして、お姉さんはピッと親指を立てて言う。

「Have a nice day!」

おおっ!2日目のキオスクのお姉さんと同じ対応だ!お客に対してこのフレンドリーな対応、日本じゃありえないなあ~。外国に来ている事をまたも実感し、満足感に浸る僕。

その昼食を食べながら、人の流れに沿ってどんどん進む僕は、やがてステイブル・マーケットに辿り着く。
ステイブル・マーケット内にあるフード・コート

ステイブル・マーケット
インディア料理を食べて、ちょっと喉が乾いた僕は、マーケット内にあるフード・コートにて、ピーチ・ティーを買う。これとさっきの屋台料理を合わせて、昼食の価格は5£になる。僕みたいな貧乏旅行者は、食費は極力安く済ませたいのだが、たった5£でも、日本円にしたら約1,000円。屋台でもこれだけかかってしまうとは、ロンドンでの物価の高さを実感する。

マーケットでは、服飾関係を目当てにお店を周るのだが、どうも目ぼしい物が見当たらない。と言うか、まずコンディションが良くない物ばかりなんですよね……。

しかしそんな中、フード・コートからにさらに奥に進んだ場所に、なかなかの良品が揃うショップを見つける(画像右)。靴はチャーチ(当然、プラダ買収前)にバーカー、服飾関係ではハリスツイードのジャケットや、アクアスキュータムにバーバリーのトレンチ・コート、そしてグローヴァー・オールのダッフル・コートなどが、良心的な価格とコンディションで売られていた。

僕の体ではサイズが合わず、またも買わなかったのだが、ここは機会があれば、再度見に行く価値はあるのかもしれない……。

ところで、僕もロンドンに来て約一週間になりますが、どうしても気になる事があります。

ロンドンの女の子はズボンがローライズすぎて、皆、腰の辺りが丸出しです。寒くないんでしょうか?

ステイブル・マーケットを出て、チョーク・ファーム駅方面へ20mほど歩いた場所にあるこのお店、「MODERN AGE」です。ハリス・ツイードのジャケットなどなど、良品が結構置いてありました。価格は25£~。サイトを見たら、通販もやっているようですね。



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時計を見ると、時刻はまだ14時半ほど。友人との待ち合わせまでまだ余裕があるので、パディントン近くまで戻り、ハイド・パークを散歩する事にする。何しろロンドンに来てからと言うものの、毎日、靴や服飾関係のショップばかり行っていて、いわゆる"観光地"と呼べる所に一度も行ってなかったんですよね……。

なぜ数ある観光地から、ハイド・パークを選んだのかって?そんなの決まってるじゃないですか。
タダだからですよ。タダだから。

こんな奴ですいませんね。
ハイド・パーク

そんなわけで、やって来たハイド・パーク。ロンドン滞在最終日にて、初めて観光らしい事をやっている僕。

ハイド・パーク

広い広い。

ハイド・パーク

なかなか長閑で良いところです。

ハイド・パークのリス

英国留学経験のある友人から「イギリスの公園には、リスが当たり前にいるんだよ!公園には絶対行ってみて!」と前もって聞いていたのが、ハイド・パークに来た理由の一つ。そして、そのリスをこうやって目の当たりにすると、「本当にいる!」と、驚きとともに、そのかわいさに嬉しくなってしまう(笑)。

ハイド・パークの白鳥

池の周りに柵がなく、白鳥がまさに手の届きそうな所にいるのも、日本人にとっては結構びっくり。

歩いているうちに、時間も16時近くになった。さーて、そろそろ向かいますか、友人宅へ!
いったん宿に戻って、友人に預けるスーツとコート、シャツ、ネクタイ、そして鞄を持ってチューブに乗り込む。

さて、チューブに乗っていると・・・…
"ビリッ!"と言う音ともに、スーツのビニール・カヴァーが裂けやがった……うっわー………。やはり、安いビニール・カヴァーに3ピース・スーツにロングコート、シャツ、ネクタイを全て納めるには無理があったか。特にロングコートが重量あるんだよな。でも、ここまで来て、もう宿に戻る事なんてできない。裂けたのは一部分だけなので、あまりカヴァーに負担をかけないよう、持ち方に気を使いながら、そのまま移動する。

やがて、リヴァプール・ストリート駅に着くと、約束どおり、改札前で待つ僕。しかし、友人はなかなか現れない。おかしいな。何かあったのかしら?

約束の時間を20分過ぎても来ないので、どうしたのだろうかと、友人に電話をかけてみる。

「今どこ?自分は改札前にいるんだけど……」
「私ももう着いてるんだけど……」
「え?」
「改札のどこにいるの?」
「リヴァプール・ストリート駅のー、改札近くにある、公衆電話で……」
「え?リヴァプール?何言ってるの!?
ストラット・フォードって言ったじゃん!」

何~!!!

一体どこで聞き間違えたのか、記憶違いしたのか、
僕は待ち合わせ場所を間違ってしまったのだ!一瞬で青ざめ、背中に冷や汗が噴き出る僕。

友人に全力で詫びて、「今すぐストラット・フォードに行くから!」と電話を切って、チューブへ駆け込む僕。ううっ、ドジもここまで来ると申し訳なさすぎると言うか、情けないと言うか……。

おそらく顔面蒼白になりつつ、さらに20分後ぐらいに、ようやくストラット・フォード駅に到着。友人を待たせまくってしまった……。

駅で友人と会うなり、ペコペコ頭を下げて謝る僕。そして、バスに乗って友人宅に向かう。友人が住むのは、バス・トイレ共同のフラット。要するに、アパートですな……。ロンドン生活者の空気に触れるのも、興味深い経験。

フラットでは嬉しい事に、友人が夕食を作ってくれるとの事。親切心に感謝しつつ、ありがたくご馳走になる僕。食費も浮くし、助かるなあ……。
食事しつつ、そして友人が淹れてくれたチャイを飲みながら談笑。

友人はロンドンではテート・モダンが好きで、もうこれまで何度も行ったそうだ。僕も「是非行ってみて!」と薦められていたのだが、結局は行かずじまい。

「ロンドンではどこに行ってたの?」
友人からは、ごく自然な質問をされるが……。

「え?あー、いやあの……靴屋さんとか、服屋さんばかり行ってて………」

別にやましい事はしていないのに、言い辛いのは何故だろうか。

そして友人に、年末に僕がポール・スミスに行く際、通訳として付いて来てくれないか?と、また図々しいお願いをする僕。何しろフォスター&サンでビスポークしてみて、日本語で注文ができる、その気楽さを実感したためだ。
友人は服飾関係の専門用語を伝えられるか、少々不安になっていたが、「そんな難しい言葉は使わないよ~」と僕が言うと、「日程の都合が合えば」とOKしてくれた。本当、苦労ばかりかけて、申し訳ないですね。

「昨日と今日はロンドンのマーケットを巡って来てさ~」
「でもこっちのマーケットってさ……」
「ボロボロばっかりだよね(笑)」
「そうそう!こっちじゃ、日本のフリマ(フリーマーケット)みたいのってありえない」
「日本じゃ、新品同様の品がゴロゴロしてるもんね。こっち(英国)の人って、使える物を使えるまで使うんだな~、って実感したよ」

友人とは何度か、日本でフリマを出店した事があるのだ。

「あと、こっちの人って、人付き合いがよそよそしくないよね。フレンドリーで。オレ、ただ買い物しただけなのに、2回も店員さんに"Have a nice day!"って言われたもん。こういうの、日本じゃありえないよね」

「……………………???????」

急に怪訝な表情になる友人。どうも、僕の話が信じられないようだ。友人はもう、2年ロンドンに住んでいるが、そんな対応をされた事は一度もないと言う。

「………それは、山下さんが面白かったからじゃないの?」

………ん……………………。

………そうか…僕は、面白かったのか………………。

友人からは、ロンドン生活の話を聞く。友人によると、ロンドンの女の子はイマイチとっつきにくく、馴染みにくいそうだ。

「ロンドンの女の子は、Posh!」

友人は自分の鼻を指して言う。つまり、ロンドンの女の子は高飛車で、鼻っ柱が強いそうな。ロンドンでは英国以外の国籍の人も多いため、友人はそちらの人と仲良くしやすいらしい。

「そんなもんかなあ~。オレはそんな風に感じなかったけどなあ」

さらに、こんな話もする。

「ロンドンの人って優しいし、日本みたいにあくせくしてなくて、雰囲気に余裕があるよね。生活が豊かだから、ああ言う感じになるのかなあ~って」
商店街での、のんびりした買物ぶりを見て、僕はそう感じたのです。でも、友人の意見は違うようだ。

「そうかなあ~……。物乞いの人、たくさん見なかった?」
「いや、自分は見なかったけど……」
「観光名所とか、人がたくさん集まる所に行ってみてよ。物乞いの人がたくさんいるから。日本じゃ、あんなにいないよ」

だから、ロンドンの人がとても豊かとは思えない、と友人は言う。

この時は、友人の言う事がピンと来なかった僕だが、後に中東欧を周ってみて、その意味が何となく理解できたものです。ロンドンの女の子と言うより、西欧の女の子は、確かに他国と比べて高飛車……。
そして確かに、ロンドン、と言うより、欧州は物乞いが多い。いや、日本がダントツで少ないと言った方が正しいのかもしれない。そして、物乞いが少ない日本は、なんて素晴らしい国なのだろうと実感したものです。

やがて友人とともにフラットを出て、最寄駅まで行く。しかし、まだストライキが解除されておらず、チューブも運転していない。
友人は通りすがりの人に、「まだチューブは動いてない?」と聞いてくれるが、やはり「動いてない」との事。

それにしても、日本にいた頃は、ほとんど英語が話せなかった友人が、今、ロンドンで現地の人と当たり前に話しているのを見て、何だか感動してしまう僕。友人は2年、ここで頑張っているんだなあ、と実感する。

友人はさらに駅員さんにも運行状況を聞いてくれるが、やはり「今日は一日、動かないよ」の返事。

仕方ないので、チューブが動いているストラット・フォード駅まで、バスで行く事にする。土地勘がない僕に、友人もいっしょに付いて来てくれる。そして、また来月末の再会を約束してお別れ。荷物も預かってもらったし、本当、友人にはお世話になりっ放しだなあ……。

さて、駅前にて。トイレに行きたくなったので入ろうとする僕だが、何せ、ここはロンドン。トイレは有料なのだ。うーん、どうしようかな。宿に着くまで、我慢しようかな。
トイレとは無料で使うものだと思っている、典型的日本人気質と貧乏人根性丸出しの僕。

そう言う理由で、トイレの入口前で迷っていると(←マヌケすぎ)、そこでドアがガタンと開き、先客の若者が出て来た。そして、その若者はドアが閉じないよう、足でドアを支えたまま言う。

「ほらっ、入りなよ。このままだったら、タダで入れるぜ!」

うお!
なんて親切な方!そうか、いったんドアが閉じてしまったら、ロックされて有料になるが、ドアが閉じないうちに入れば無料なのだ。

「ありがとう!」

お礼を言ってトイレに飛び込み、気分良く用を足す僕。あ~、やっぱりロンドンは、親切な人が多いじゃないの……。

ロンドンでの一週間は楽しく、ほぼ予定どおりの毎日が過ごせた。さーて、明日からはいよいよウィーンだ。ちゃんと飛行機に乗れるかなー?






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※ この作品はノンフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、すごく関係あります。
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