伝説の職人、テリー・ムーアさん ~ 伝説の職人 ~

Last maker , Patterner

Terry Moore
60年代、それはロンドンにおけるビスポーク・シューズ文化最後の繁栄期。ジョン・ロブ、ヘンリー・マックスウェル、ニュー&リングウッド、ワイルド・スミスはもちろんの事、初代ジョージ・クレヴァリー、ニコラス・トゥーシェック、アンソニー・クレヴァリー、ピール&コー、ポールセン・スコーン、アレン・マカフィー、ベイズリー&サンも健在。そして、その繁栄を裏付けるがごとく、この当時のビスポーク・シューズは、ピッチの細かさ、各所の丁寧な仕事、革質、そして美しいシェイプと、素晴らしいクォリティを誇っている。

テリー・ムーア。72歳にしてなお現役のラスト・メイカー。そして、ビスポーク・シューズ文化が華やかりし頃を知る最後の職人である。



「元々、自らの手で何かを作る事が大好きだった」
靴職人を志した理由に、そう語るテリーさん。また、その当時、秀才は違った職種に就くことができたが、自分のようなタイプは靴業界に入るくらいしか道がなかった、とも言う。手に職を付ける事、それがテリーさんの選択した道だったようだ。
まずテリーさんが学んだ先は、かの有名なコードウェイナーズ・カレッジ。そして、一時期の軍隊生活を経て、入社した先はピール&コー。まずは見習いとしての扱いだったそうだ。やはりテリーさんにとって、このピールの影響は強いのか、自らの作風もこのピール&コーがルーツであると語る。
しかし、このピール&コーはファミリービジネス。1965年、代表者が亡くなられたのを機に、その歴史に幕を閉じる事となる。そして、それを契機として、テリーさんはオファーがあったフォスター&サンへ移籍。この際、テリーさんが移籍先を決めた理由として、就労条件の良さもさる事ながら、ワークショップでの権限をテリーさんに委ねる、つまり、自分の能力を存分に発揮できる環境というのも魅力だったとの事。事実上の独立とも言えた。

ロンドン注文靴業界にこの人あり、"フォスター&サンのテリー・ムーア"。その幕開けであった。

なお、この頃、テリーさんは初めて、日本人のお客様を受け持っている。それはウィンザー公の友人であった旧華族の方との事。ウィンザー公の履かれていたギリー・シューズと同じものを注文されたそうだ。




ウィンザー公のギリー・シューズ

ウィンザー公のギリー・シューズ。

旧華族の方のギリー・シューズ

左の靴を基に、旧華族の方がご注文されたギリー・シューズ。ゴルフ時に履かれていたそうで、白の平紐がスポーティ感を演出。洒落者である事を伺わせます。


ラフターンと呼ばれる大まかに仕上がったラストを削り、ビスポーク・ラストを作っていくテリー・ムーアさん。動画では簡単に削っているように見えるが、実際は熟練した技術の賜物。慣れない人が行えば、斧がラストに引っかかったり、滑ったりで、スムーズに削れないそうだ。
そしてこの後、ヤスリで細かく削り、ラストは完成となる。ラフターンからラストを作成をする場合、基本的には削りのみで仕上げ、仮縫いで不具合があった時のみ、乗せ革をするとの事。
また、一般的に、ラストには木製ラストとプラスティック製ラストがあるが、フォスター&サンでは木製にこだわる。

「プラスティック製ラストはあくまで大量生産のために作り出されたものです。ビスポークの木型は一人一人のために作られているので、既製のラストに貼ったり盛ったりするだけの木型は、私の中ではビスポークのラストと言えません」

やはり乗せ革だけでは、足型を忠実に再現するに、不十分な点があるのであろう。また、ラスト作成に大切なのは、採寸の数値に頼らずとも、足の形を把握する能力だと言う。



テリーさんは自分の最も得意なスタイルとして、フルブローグ・オックスフォードを挙げる。そして、ラスト作成においては「足にフィットする事」を最優先事項とし、それを踏まえたうえで、エレガントなシェイプを可能な限り作り出す事と語る。ボール・ジョイントより後部がフィッティングを司り、それより前部(フォーパート)が"デザイン"となるのだそうだ。そして、"デザイン"については、お客様から強い要望がある場合を除き、自ら提案する事もあると言う。

「エレガントでニート、ボトムのシェイプ」

自分の作る靴の特徴をそう語るテリーさん。この場合で言うボトムのシェイプとは、土踏まずの成形の事。ビスポーク・シューズならでは、個々の足を忠実になぞるアーチラインが、快適な履き心地を生み出す。

これまで、お店では職人さんの入れ替わりが幾度もあった中、65年以降、一貫してフォスター&サンに勤め続けるテリーさん。その実績もあって、現在では他のビスポーク・シュー・メイカーでも技術指導する立場にある。その裏打ちされた実力は、今なお健在。"生きた伝説"とまで称される、まさに大御所である。







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