スキャバルのアルティマス (自己測定目付343g)
SCABAL ULTIMUS
スキャバルのアルティマス

スキャバルのアルティマス

以前に自分のWeblogでも少し書いた、スキャバルの限定最高級生地、アルティマス(ウルティマス)です。画面越しでは、生地の質感がしっかり伝わらないのが惜しいですが……。

ネットで検索してもお分かり頂けますが、アルティマスは1966年に発表された、当時としては珍しい、Super160’sの繊細生地。18着分のみの限定品だったそうで、価格も着分(つまり3mかな?)60万円(現在では数100万円相当)と、呆れるほどの高級品だったとか。

その後も数回、スキャバルはアルティマスを発表したようですが、このアルティマスは、カシミア×ヴィクーニャ30%混のSuper100'sウールとなっております。
スキャバルのアルティマス

スキャバルのアルティマスの耳

スキャバルのアルティマスのネーム・プレート

のアルティマスは70年代半ば頃か、それ以前の品と言う事はほぼ間違いないのですが、それ以外の事は、ちょっとハッキリしません。もしご存知の方がいらっしゃいましたら、具体的な発表年代とか、混紡率の詳細などを教えて頂けますでしょうか?

なお、ヴィクーニャとカシミアの混紡と言うと、相当艶がある生地を想像されると思いますが、このアルティマスに目立つ光沢はなく、重厚な風合いです。これは元々こう言う感じなのでしょうか?それとも、経年変化(劣化?)のせいでしょうか?

ただ言えるのは、打ち込みが強くて目は詰まっているのに、手に取ると柔らかいです。これはヴィクーニャとカシミアの力と言えると思います。
参考までに、下画像は僕が03年に購入した、イタリアのチェザーレ・ガッティのヴィクーニャ15%×カシミア85%のコート生地。自己測定目付は500g。

チェザーレ・ガッティのカシミア×ヴィキューナ生地

チェザーレ・ガッティのカシミア×ヴィキューナ生地

やはりヴィクーニャとカシミアだけで構成された生地は、上質感ありますね。画面越しではあるものの、それでも眩いばかりの光沢はお分かり頂けると思います。柔らかすぎて耐久性が疑問なのですが(笑)、素晴らしい生地です。

この生地では既にコートを仕立てておりまして、上はその残反になります。いつかマフラーにしようと、そのままとっておいてあるんですね。

ただ、仕立てたコートが一度、小雨にあってしまいまして、そのせいか、少し光沢が消えてしまいました(笑)。ブラッシングしたりして、多少、状態は回復したものの、それでも初期状態ほどではありません。ヴィクーニャ×カシミアの生地とは、こう言うものなのでしょうか?それとも、ゼニアやロロ・ピアーナなど、他メイカーでしたら、そんな事はないのでしょうか?もしくは、生地の仕上げ(整理)の問題かもしれません。

ちなみに、このチェザーレ・ガッティを購入した海老原保商店さんは、07年春に廃業してしまいました。寂しいですね……。



スキャバルのアルティマス 83年版 (自己測定目付353g)
SCABAL ULTIMUS 1983
スキャバルのアルティマス83年版

スキャバルのアルティマス83年版

スキャバルのアルティマス83年版

上画像のとおり、実はスキャバルのアルティマス、もう一着分所有しております。こちらはおそらく、83年に発表されたアルティマスです。

なぜ83年版と推測できるかと言うと、83年版アルティマスの広告写真は、アーガイル公爵がメイヤー&モーティマーで仕立てたスーツを着て撮影したそうで、その生地が、ネイヴィー・ブルー地に細い青ストライプだったらしいんですね。そして実際、この生地の耳には、「DUKE OF ARGYLL'S CHOICE」=アーガイル公爵選択と書かれ、生地の色柄ともしっかり合致します。

ただ、あくまで推測なので、もしこのアルティマスが83年版ではないと思われましたら、ご指摘頂けると幸いです。

質感としては、先に掲載したヴィクーニャ×カシミアのアルティマスよりは、少々艶がある感じでしょうか。ただ、やはり目の詰まり、重厚な感触の方が目立ちます。これも、元々こう言う風合いなのか、それとも経年変化によって変わってしまったのか、気になるところです。このアルティマス、発売当初の状態をご存知の方はいらっしゃいますでしょうか?

なお、この83年版アルティマスは、Super120’sウールによる100着分限定だったそうです。もちろんアルティマスですから、ただのSuper120’sではありません。オーストラリア産シャーリー・ウール使用のSuper120’sウールになります。

では、シャーリー・ウールとは何でしょうか?

羊にも当然、たくさんの種類がいるのですが(3000種以上らしい)、その中でも一般的に、サクソン・メリノ種がスーツ生地には最高級とされています。

そして、そのサクソン・メリノ種の羊毛が痛まないよう、紫外線や風雪雨の当たらない室内で育て、与える水、食料も徹底管理し、大事に大事に育てあげたのが、シャーリー・ウールです。日本語では、室内飼育羊毛と呼ばれているみたいですね。

メリノウールの中でも、繊維直径15〜19ミクロンの細いウールはファイン・メリノ・ウールと呼ばれ、その中でもさらに上質なのは、スーパーファイン・メリノとか、エクストラ・ファイン・メリノと呼ぶそうです。

そして、そのエクストラ・ファイン・メリノの中でも、さらに上質なのが、シャーリー・ウールだとか。何だか上回ってばかりですね(笑)。このアルティマスに使用されたシャーリー・ウールの繊維直径は、平均15.5〜16.5ミクロン。またシャーリー・ウールは細いだけでなく、強靭さも兼ね備えているのだとか(本当かな?)。

何でもオーストラリアでは、このシャーリー・ウールの品質管理、向上、そして普及のために、シャーリー・ウルトラファイン・ソサエティ・オブ・オーストラリアと言う組織もあるみたいです。そして、この83年版アルティマスは、その組織との提携で作られたとか。生地の耳に、"ULTRAFINE WOOL FIBRE"と書かれているのも、そのせいでしょう。


スキャバルのアルティマス83年版ネーム・プレート

上画像は、83年版アルティマスの付属プレートです。「RARE FIBRES」と書かれており、おそらく、シャーリー・ウールを指しているのでしょう。

この83年版アルティマス、さすがに価格も相当しまして、仕立て上がり参考上代は、当時100万円。スキャバルの最上級ライン、ルクソール(super120’sウール80%×カシミア17%×ヴィクーニャ3%)が当時の卸価格でメートルあたり68,000円でしたから、アルティマスはやはり傑出した存在です。もちろん、貧乏な僕では絶対買えない生地なのですが、ありがたい幸運があって、どうにか破格値で入手できました……。

それにしても、いくら上質なシャーリー・ウールとは言え、カシミアやヴィクーニャと言った希少動物でもないのに、100万円と言う価格は、やはり高すぎる気がします(笑)。元々、スキャバルは価格設定が高いマーチャントですが、もしかしたらこの高値は、シャーリー・ウールそのものが、まだ珍しかった時代のせいかな?とも考えてしまいます。実際はどうなのでしょうか?

シャーリー・ウールの登場は78年からのようですが、その後も実験、工夫、改良が施され、市場に出回ったのは、僕の知る限り、80年代に入ってからのようです。日本では85年に、日本の老舗羅紗商である鷹岡さんが、創立100周年記念として、シャーリー・ウール使用生地を「エキストラ・マジェスティ」の名で発売しております。こちらは当時、着分45万円だったそうです。

そして86年冬には、御幸毛織さんが、このシャーリー・ウール使用生地を、「ナポレナ・シャーリー」の名で販売開始致しました。価格は、その当時で着分(3m)40万円、90年頃で45万円だったとか。

ちなみに、シャーリー・ウールが開発された当初は、繊維直径16ミクロンほどだったそうですが、今は技術開発が進んだせいか、11ミクロン台もあるそうですね……。一般的にカシミアが15ミクロンほどですから、その技術向上たるや、恐るべしです。

もしかしたら、シャーリー・ウールは当初、カシミアの代用品として開発されていたのかもしれませんね。カシミアに迫る細さながら、価格はカシミアより安かったそうですから(今は知らないです)。

さて、ついでに書きますと、シャーリー・ウールのように特別なウールが存在するならば、今度は特別な"糸"も存在します。英国のハダースフィールドにある紡績会社、ジョセフ・ラムズ社が選定する、ゴールデン・ベールがそれになります(アルティマスがゴールデン・ベール使用と言うわけではありません)。

これはジョセフ・ラムズ社がオークションで落札したメリノウールの中から、手作業で上質なウールを選び出し、そのウールで作り出した糸に、ゴールデン・ベールの名が冠せられます。

そして、このゴールデン・ベールは、テイラー&ロッヂ、モクソン、リード&テイラー、マーティン・ソン、リーロイドの5つのミルだけに供給されると決まっているとか。

さらにジョセフ・ラムズ社は、ゴールデン・ベールの中から上質品を5反分(100着分)厳選し、その5反分を作った牧羊業者には、ゴールデン・ベール・アワードと言う賞が贈られるそうです。これは牧羊業者さんの活性化につながって、良い表彰制度ですよね。そして、その5反からそれぞれ一反ずつを、上記5社に配布するそうです。

H.レッサーやダンヒルでは、ゴールデン・ベール使用生地を扱っていたりしますが、つまりその生地は、上記5社のうち、いずれかで織られたと言う事になりますね。

気になるのが、ゴールデン・ベールを卸すミルが、どうしてこの5社に限られているのでしょうか?この5社が、ゴールデン・ベールの良さを活かせる力があると言う事でしょうか?それとも、単にミル側の営業が上手かっただけなのでしょうか?

84年には、テイラー&ロッヂが創立100周年記念として、ゴールデン・ベールを使用したsuper100’sウール×カシミア生地を発売したそうです………。ゴールデン・ベールを取り扱える5社の中でも、もっとも取扱量が多いのが、テイラー&ロッヂらしいですね。

また、日本では過去に(バブル期?)、服地卸商であるストック&ゼノックがテイラー&ロッヂ、モクソン、リード&テイラーによるゴールデン・ベール・コレクションを発売したそうです。当時の着分(3m)価格は20〜25万円。

長々と書きましたが、どれも素人の僕が調べた情報なので、もし誤っている点や、追加情報がございましたら、お詳しい方、ご教示頂ければ幸いでございます。もっとも、情報を集めるよりも、実際に仕立てて、着用してみて、実用性や仕立て栄えを知るのが一番大切なんでしょうけど……。

さらに申し上げれば、生地の良い保管方法を教えて頂ければと思います。僕はいつも、ただひたすら防虫剤を放り込んでいるだけでして、どうもそれでは不十分なのか、所有している生地のいくつか、虫食いにやられました……。



この記事へのコメント
山下大輔さま、「オーダーメイダーズ」へようこそお越し下さいました!
いやー、いきなりすごいコレクションですね。
写真で見るだけでも、かなり風合いが伝わってきます。
実物はすんごいのでしょうね!今後もよろしくお願いいたします!

Posted by スタッフA at 2009年09月14日 08:06



スタッフAさん、コメントありがとうございます!
こちらの生地、どれも発売されてから大分年数が経っておりますので、当初の風合いがどんな感じだったか気になるところです(笑)。生地は素人では分からない劣化がありますから、ヴィンテージ品入手はリスクが伴いますね…・・・。

Posted by 山下大輔 at 2009年09月14日 11:30



スゴイ!!!生地屋さんじゃないんですよね!? 私も「生地」は大好きですが、一般の方でここまでの「生地好き」(間違っていたらゴメンナサイ)の人がいらっしゃるとは!!! ちょっとイヤかなり、嬉しいです。

 ※※生地は羊の「毛」ですから、多少は経年劣化があります。感覚的にですが、10年位たつと脂分が抜けてしまい多少「かさつく」印象です。※※ でも昔の生地は目付(重量/面積)がしっかりしていて、スーツにした時の「仕立て映え」は最高です。当社でも何年か前にビンテージ生地を販売した事がありますが、柄は懐かしいながらも、スーツとしての雰囲気は最近の生地では出ない素晴らしさがありました!

 光沢感の差ですが、拝見した画像では「織り」の差が大きいと思います。チェザーレ・ガッティの生地は恐らく、コート用の起毛素材かと・・・。毛足を長めに仕上げる事で光沢感を引き出しています。 

   ちなみに生地の保存ですが、新聞紙にくるむのが良いと思います。毎年新聞紙を交換する必要はありますが、虫は新聞紙のインクが苦手なようです。新聞紙にくるんだ上で防虫剤を入れておけば、「虫喰い」は防げると思います。

Posted by 福岡 良介 at 2009年09月15日 11:21



>福岡良介さん
はじめまして!山下大輔と申します。たくさんご教示下さいまして、どうもありがとうございました。本当、嬉しいです(笑)!
はい、生地屋さんではないのですが(笑)、生地をたくさん見たり、買ったりしているうちに、いつの間にか、生地が大好きになっちゃいました。

生地の乾燥感、やっぱり経年劣化なんですねー……これは回復しそうにないですし、割り切るしかなさそうですね(笑)。

光沢について、「織り」の差は気付きませんでした(笑)。ありがとうございます。仰いますとおり、ガッティはコート生地でして、毛足も長いです。僕がストックしてある生地のうち、毛足の長いフランネルがあるのですが、こちらも光沢が強く感じられますね。勉強になります!

虫食い予防に新聞紙、初めて聞きました!インクが苦手となれば、効果ありそうですね〜。早速試してみようと思います!特に夏物キッドモヘア混の生地は、虫食いが怖いので……(笑)。

たくさん教えて下さいまして、本当にありがとうございます!恐縮です。

Posted by 山下大輔 at 2009年09月15日 22:47



(※このテキストは、09年9月13日に別Blog「The Artistic Fabric」にて書いた記事に一部加筆修正したものです)







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