ルーマニアの注文服・靴・帽子店
Bespoke shop in Romania
ルーマニアは首都のブカレストをはじめ、ブラショフ、シギショアラ、クルージ・ナポカの4都市を、約2週間ほどかけて回りました。シギショアラは小さい町なこともあって、これといった服・靴屋さんは見つけられなかったのですが、他の3都市ではテイラーなどがありましたので、ご報告させて頂きます。

※ 6・7枚目の画像をクリックして頂きますと、拡大画像が出ます。



ブカレストのビスポーク・テイラー
ブカレストのビスポーク・テイラー

ちょっとこの写真では分かりにくいですねー……。ブカレスト屈指の大通り、ヴィクトリア通り沿いにあるテイラー、「VENUS」です。住所はBucharest Calea Victoriei 112。スーツの価格は4,500,000レイ(約17,500円)~。おそらく生地代込みの価格です。もの凄い安さですが、ハンドメイドで、当然、仮縫いもあります。

ルーマニアと言えば、89年まではチャウシェスク大統領率いる共産党による、一党独裁で知られておりますが、このテイラーは、その旧共産党本部の近くにあります。単純に立地条件で考えるならば、ここのテイラーはその共産党御用達だったかもしれません。共産党は恐怖政治を強いていたそうですし、となると、このテイラーの腕は良いかも……とは好意的解釈でしょうか?(笑)
店内にサンプルはなく、どんなスタイルかはまったく分かりませんでした。

ちなみにここのテイラーは、近くにあった生地屋さんに教えてもらいました。ルーマニアではいくつも生地屋さんを見かけまして、売られている生地は全てルーマニア製のようでした。生地の風合いに高級感が無かったのは残念ですが、価格はさすがに安いです。




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ブカレスト旧市街

ブカレストには、ほんの少しだけ旧市街が残っております。上の画像がそれです。面積としては、渋谷のセンター街と同じくらいでしょうか。何でも、ブカレストにおける古い伝統的な街並みは、チャウシェスク政権時代にほとんど取り壊されてしまったそうです。普通、首都の旧市街と言えば、ベルン、ブダペスト、プラハ、ワルシャワ、リマ等など、世界遺産として観光地化されている所が多いですが、ブカレストの旧市街は寂れていて、埃っぽく、当然、世界遺産にも指定されておりません……。
ですが、実はその狭いエリアに、意外な数の洋服屋さんが集中しているのです。上の画像でも、右にジーンズの露天商が写っておりますね。もちろん、仕立て屋さんに、注文靴店、注文帽子店、靴修理屋、生地屋さんもあります。とくに生地屋さんでは、どこもそこそこお客さんが入っておりまして、若い人もいれば、おばさんもいてで、年齢層も幅広いです。取り扱っている生地も、スーツ用だけでなく、カジュアル用のも多いです。以上の事から、ルーマニアでは、服は"仕立ててもらう"という感覚が残っているのかな?と感じました。

ブカレストのウェディング・ドレス店

この旧市街には、なぜだかは分かりませんが、ウェディング・ドレスの仕立て屋さんがたくさんあります。正確な数は不明ながら、ざっと10軒ほどはあったでしょうか。渋谷のセンター街と変わらぬ広さで、これだけの数の仕立て屋さんがひしめきあっているのは特筆すべき事項かと思うのですが、いかがでしょう?
ほとんどのお店に工房が併設されているようで、窓からカーテン越しに、数名の女性スタッフさんが、ミシンでカタカタ縫っているのが見えました。需要は結構あるようですね。
ブカレストはかつて、"バルカンの小パリ"と呼ばれていたそうですが、さしづめここは、"バルカンの小サヴィル・ロウ"?または"バルカンの小カサルヌーヴォー"???もっとも、クォリティまで対抗できているかは怪しいですが……。
ブカレストのウェディング・ドレス店

こちらも、旧市街にあるウェディング・ドレスの仕立て屋さんです。看板に書かれている「Croitorie」とは、どうもルーマニア語で「仕立て屋」さんという意味みたいです(多分)。
僕自身が男性なので、ウェデング・ドレスのお仕立て価格は聞かずじまいでしたが、メンズ・スーツのビスポーク価格から推察すると、仕立て料金は1万円台程度でしょう。近所に同業者が多いという事は、それなりに価格競争もあるでしょうし。
となると……このルーマニア製のウェディング・ドレス、日本に輸入すれば安値で販売できて、結構儲かるんじゃないの?などと、しょーもない素人考えをしてしまいました(笑)。もしかしたら、もう行われているのかも?ヨーロッパでは、既にルーマニアで生産を行っているブランドも少なくないですね。
ブカレストのビスポーク・テイラー

こちらも旧市街にあるお店。ウェディング・ドレスだけでなく、メンズ・スーツのビスポークも行っているテイラーです。仕立て代は2,200,000レイ(約8,500円)~との事。おそらく、生地代は別と思われます。
製作途中のジャケットを見させて頂きましたが、ハ刺しの数がかなり少ないのが気になりました……。ひょっとしたら、まだ刺している途中だったのかもしれませんが。
ブカレストのビスポーク・テイラー、サンプル

さて、このテイラーにあったサンプルなのですが……正直、あまりカッコ良くないですね。まだ作りかけのせいでしょうか?
ブカレストのビスポーク・テイラー、サンプル

しかし、完成品と思われる、こちらのジャケットもカッコ良くないです……。
これら以外にも、旧市街から少し離れた所に、マシンメイドによる仕立て屋さんがありました。カジュアルウェアを主に作っているようで、そのお店では、575,000レイ(約2,200円)から注文可能との事。生地代は別でしょう。
ブカレストの注文靴店

旧市街にある注文靴店の画像です。看板にある「Comanda」とは、ルーマニア語で「注文」の意味のようです。ただ、ガッカリだったのは、店内にある靴は全てセメント製法だった事。そして、アッパーにも皺が寄っていたりして、釣り込みはいいかげんのようです……。店内にはいくつかラストが置いてありましたので、セメント製法でのビスポーク、或いはパターン・オーダーを行っているのでしょうか。
この界隈には、このお店以外にもいくつか注文靴店はありましたが、どこもセメント製法でした。
アレッサンドロ・ルッチ

こちらは仕立て屋さんではなく、ルーマニアのデザイナーズ・ブランド、アレッサンドロ・ルッチ。ブカレスト最大のデパート、「ウニリャ」内にありまして、ブラショフには路面店がありました。なかなかカッコ良いな~、と思いましたので、掲載しておきました(笑)。生産はブカレストですが、生地はイタリア製だそうです。
ここのスーツは7,800,000レイ(約3万円)。前述したお店のビスポーク・スーツより、既製のこちらの方が高いのは、イタリア製の生地を使用しているためと思われます。
ブラショフのビスポーク・テイラー Cromod
ブラショフのビスポーク・テイラー

ブラショフ(サン・クリスピンの工房がある街)にあるテイラー、「Cromod」です。住所はBrasov Str.Apollonia Hirscher10。ブラショフ中心街にある、スケイ門近くにあります。お店は小さいながら、ブカレストのテイラーと比べて小奇麗ですね。上画像にあるサンプルはイマイチ垢抜けてなく、まったく惹かれませんでしたが、店主さんの着ていたジャケットはすごく素敵!
頂いた名刺によると、店主さんのお名前は「Vasile BOT」さん。
価格は3ピース・スーツで1,545,000レイ(約6,000円)、2ピース・スーツで1,280,000レイ(約4,900円)。レディース・スーツは1,140,000レイ(約4,400円)。生地代は別と思われます。仮縫いまでは3日かかるそうで、それからさらに8日後に完成とのお話でした。
値段も安いので、一着注文しようかな?と思いましたが、僕はシャツ、ネクタイをロンドンに預けたままで持って来ておらず、正確なフィッティングがしてもらえるかどうか不安でした。現地で買おうにもサイズが合わないため、結局見合わせました……。

小さなテイラーではありましたが、お客さんはひっきりなしにやって来て、服のお直しを受けておりました。




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ブラショフの生地屋さん

ブラショフ駅から徒歩5分くらいの所にある生地屋さんです。ご覧のとおり、そこそこ大きいお店でして、お客さんも結構入っておりました。

ちなみにブラショフでは、スター・デパートと言う、ルーマニアにしては大きいデパートがあります。そうですね、南浦和にある丸広より、二回り小さいぐらいでしょうか(超ローカルネタですいません)。
そして、ここのデパートで販売されていた、既製スーツの価格を参考までに。すべてルーマニア製です。
デパートのオリジナル?3ピース・スーツで1,780,000レイ(約6,900円)。ドレスシャツは700,000レイ(約2,700円)。
ブランドネーム・「Lo Spaccio」。3,000,000レイ(約11,500円)。生地はイタリア製。
ブランドネーム・「Seroussi」。イタリアのレダやカノニコ、Super100'sの生地を使用。2ピーススーツで6,790,000~7,990,000レイ(約26,900~31,000円)。8,000,000レイ以上するのも有。
ブランドネーム・「BIGOTTI」。シャツメイカー。1,100,000レイ(約4,260円)。生地はイタリア製。

……要するに、イタリア製の生地を使用すると、値段が跳ね上がります。それだけ工賃が安いとも言えますね。



クルージ・ナポカのビスポーク・テイラー
クルージ・ナポカのビスポーク・テイラー

クルージ・ナポカ駅から歩いて5分くらいの所にあるテイラーです。僕はこの街に3日間滞在したのですが、ずっと閉まったままでした……。もしかしたら、既に閉店しているのかもしれません。
ただ、価格表はショウ・ウィンドウに掲げられておりまして、3ピース・スーツで1,900,000レイ(約7,300円)との事です。価格から考えて、生地代は別でしょうね。
クルージ・ナポカの注文靴店

クルージ・ナポカ中心街にある注文靴店です。かなーり古そうですね~。
入店してみると、話すのも不自由そうな高齢の職人さんが、お一人で修理作業をしておりました。店内にはサンプルが飾られておりましたが、全てセメント製法でした……。価格は400,000レイ(約1,550円)。
店内に置かれていたラストはプラスティック製でしたので、一から木型を起こすわけではないのでしょう。値段を考えると、パターン・オーダーなのかもしれません。ちなみに、製甲用であろう、シンガーミシンも置いてありました。
クルージ・ナポカの注文帽子店

左の注文靴店のすぐ隣にある、注文帽子店です。価格は150,000レイ(約580円)。簡素なディスプレイが、かつての古き良き時代の雰囲気を漂わせます。第2次世界大戦どころか、第1次世界大戦の頃から、まったく変わってないようにも感じてしまいます。
こちらもやはり、高齢の職人さんが一人で運営されているようです。この職人さん、店内の帽子をいくつか僕に被せてくれたりして、人懐っこい方でした(笑)。
僕がこのお店にいたのは10分ほどでしたが、その間に3人ほど、若い女性のお客さんがやって来ましたので、結構需要はあるのだと思われます。
クルージ・ナポカのビスポーク・テイラー&注文帽子店

クルージ・ナポカにあるテイラー兼注文帽子店です。クルージ・ナポカ中心街のBOLYAIJANOSという通りにあります。
店内ではテイラーの男性職人さんと、女性の帽子職人さんがお二人、作業をしておられました。もしかしたらこのお二人、ご夫婦なのかもしれませんね。
ビスポーク・スーツの価格は2,400,000レイ(約9,200円)、注文帽子は1,600,000レイ(6,100円)との事でした。いささか帽子の価格が高すぎですので、聞き間違えの可能性もあります。おそらく、生地代は別でしょうね。

ちなみに、このお店のすぐ近くにも生地屋さんがあり、生地だけでなく、ボタンとかも販売されておりました。




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さて、ウィーンのラヨス・バーリント親方に、アレクサンドル・マフテイ親方、デブレツェンのヨージェフ・コヴァーチ氏はルーマニア出身。また、バーリントの靴はルーマニアのトランシルヴァニア地方で作られておりまして、デブレツェンもトランシルヴァニア地方の近くにあります。
歴史的にも、このトランシルヴァニア地方はドイツ、ハンガリーとの結びつきが強いそうで、1947年にパリ講和条約が結ばれるまでは、ハンガリーの領土でもあったそうです。こう言った事を考えると、この地方には、ハンドメイドの文化が残されているのかなー?と推測します。

しかし、僕が訪れたルーマニアの注文靴店は、いずれもセメント製法でした。ブラショフにクルージ・ナポカは、いずれもそのトランシルヴァニア地方なのですが……(シギショアラも)。上述のルーマニア出身の靴職人さんは、果たしてどこで技術を学んだのか……、うーん、分かりません。謎ですね。

あと気になったのが、ルーマニアの服、靴、帽子の職人さんのほとんどが、英語が通じない事です(だから意思疎通には苦労しました……)。つまり皆様、それだけ若い頃から、職人さんとして従事してきたのかな?と推測するのですが、いかがでしょう?
本来、ルーマニアは英語が通じやすい国です。僕の個人的感覚だと、フランスと同じくらいか、それ以上に通じます。にも関わらず、職人さんで英語が話せたのは、サン・クリスピンのクリスティーナ・バーブさんと、同じくサン・クリスピンのクリッカーの方のみでした。ただし、このクリッカーさんはオーストリア出身なので、ルーマニア人の職人さんで英語が可能だったのは、クリスティーナさんのみという事になります。

それにしても、ルーマニアは楽しかったです。温かくて優しい人々、荷馬車がカポカポ、ゆっくりと走るのどかな田舎町、素朴で美しいルーマニア正教の教会、安値で楽しめる料理、そして共産主義の名残……。他国と比べて観光客が少ないせいか、"スレてない"のがとにかく魅力的です。日本人をほとんど見かけないのも、「知らない所に来た」感が強くて、冒険心が沸き立ちます。また行きたいですね。







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