ウィーンの注文靴店 ゲオルグ・マテルナ注文報告
Bespoke report at Wien MATERNA
僕がマテルナ靴店で注文した理由。既製靴のデザインがカッコ良かったから。ただそれだけ……。知人が持っていたブローグスは、メダリオンは浅く広く打たれ、パーフォレイションのパターンも英国靴とは異なり、独特の豪快な表情を見せていた。この靴を絶対にビスポークで手に入れたかったのだ!

まずハウスタイルが英国靴と異なる事。これが大きい魅力でした。

親方のゲオルグ・マテルナ氏は「国際靴職人技能コンクール」で金メダルを獲得しまくった凄腕らしい。僕の知るマテルナ氏の栄誉はこちらに書いたとおりだが、さらには92・95・98・01年(どうやらこのコンクールは3年ごとに行われているらしい。次は07年かな?)にも、それぞれ金メダルを2個ずつ獲得していると言う。つまり83年以降、獲得した金メダルの数は合計14個。他にも獲得した賞は多数あるそうだ。
現在は60歳以上。こなした手強い客、乗り越えた壁も相当な数だろう。フォスター&サンのテリー・ムーアさん同様、そのキャリアも信用したかった。マテルナ氏自ら靴を作ってくれるとは思えないが(とくに初めての客に!)、それでも靴のクォリティに影響は及ぶはずである。

僕がマテルナ靴店に注文に乗り込んだのは、04年11月11日の事でした……。

※ こちらのページにある画像の一部は、KAさんよりご提供頂きました。KAさん、画像のご提供、どうもありがとうございました!2〜12・24〜33枚目の画像をクリックして頂ければ拡大画像が出ます。
マテルナ靴店の看板

マテルナ靴店の看板。「MASS-SCHUHE」とは、ドイツ語で注文靴の意味です。
マテルナ靴店の外観

マテルナ靴店の外観。
マテルナのサンプル・シューズ

ズラリと並ぶサンプル・シューズ!
マテルナのサンプル・シューズ

こちらのジョッパー・ブーツは冬用という事でしょう。ライニングは起毛素材となっております。
マテルナのサンプル・シューズ

エキゾチック・レザーを自在に使い、様々な表情を見せてくれるのがマテルナ・シューズの特徴です。右はゴージャス!パイソン・レザー使用のハイヒール・ブーツ。
マテルナのサンプル・シューズ
マテルナのサンプル・シューズ

左2足は象革の靴。中央にあるサイドレースアップのホールカットは、履き口からのぞく薄緑の挿し色がアクセント!マテルナならではのお洒落心です。
マテルナのサンプル・シューズ

ガルーシャの"ハート"が靴中央で際立つ!Vフロント。右のシルバー・カラーのオーストリッチも珍しいかも?
マテルナのサンプル・シューズ

ラウンドトウながら、U字ステッチはスクエアの変則デザイン!

マテルナのサンプル・シューズ

タッセル・ローファーもウィングキャップ付きでこれほど豪華な印象に変わります。
まずは入店する前に、外からお店のショウウィンドゥを見渡しましたが……あれれ?ちょっと奇妙な事が………。
カード会社のステッカーが何も貼られていないのです。

「もしや……」
入店するなり、小柄なおばさんスタッフさんにたずねてみました。
「あのー、こちらでクレジット・カードは使えますか?」
すると答えは!ノーの返事!困ってオロオロする僕。おばさんは英語が苦手の様子で、僕との会話がままならず。そこでおばさん、とある所へ電話をして、僕に受話器を渡して下さいました。電話口の人は英語が話せるとの事。いや、しかし親切心はありがたいのですが、僕、英語力もあまりなくて……。とりあえず受話器を取る僕だが、やはりほとんど会話する事ができず。な、情けないっ!
しかしなんとか、電話口の女性が「クレジット・カードを持ってるなら、ATMにてキャッシングすればいい」という事を話してる事は、かろうじて理解できた。電話口の女性にお礼を行って、電話を切る僕。現金の持ち合わせがない事で、こんな事になるとは……。困ってる僕の元へ、30代後半ぐらいの職人さんが登場。この方は英語が堪能。
「プレタを買わないか?」
そう薦めてきた。プレタならビスポークと比べて安いし、払えるでしょ?という事らしい。
「いや、プレタはもう持ってるから」
せっかくここまで来て、ビスポークしない事には僕にとって意味がないのだ。そんな会話をしていると、妙なタイミングで日本人のお客が現れました。この方はプレタを購入する様子。
「どう?(プレタを)試してみる?」
職人さんはプレタ・シューズの一つを手にとり、履き口を広げて僕に差し出してきたが、やはり断る僕。
そうこうしてると、マテルナ親方が僕の元に現れました!マテルナ親方は「いらっしゃい」と僕と握手をしてくれました。マテルナ親方は英語はまずまず問題ないようです。しかし、僕は現金を持っていない立場で、むちゃくちゃバツが悪いです。僕はお金を引き出してから再訪する旨を伝え、外に出ました……。

意気込んで突入したマテルナ靴店で、すっかり恥ずかしい思いをした僕。ATMへ突っ走ってお金を引き出し(限度額の都合もあって、これも結構苦労したんだよな〜)、性懲りもなくまたもマテルナ靴店へ。

再度入店すると、マテルナ親方は接客中。そして、そのお客さんが、いかにもお金持ちそうな身なりの良い初老の紳士。……僕のような貧乏人は、ものすごく場違いな客なんだろうなあ………。なんだか気が引けて、心の中でたじろいてしまう。

「さっきは失礼しました。靴が欲しいんですけど……」
職人さんに声をかける僕。
「おっ、そうかい。プレタかい?」
「いえいえ、ビスポークです」
「じゃあ、俺じゃダメだ。(ビスポークは)ボスの仕事さ。でも、今は接客中なんだ」
「大丈夫です。待ちますよ」
職人さんは笑顔で了承。僕は荷物を椅子に置いて、マテルナ親方の接客が終わるのを待ちました。その間、店内にディスプレイされている靴を見渡す僕。美麗と無骨が融合したデザイン、エキゾチック・レザーを扱うセンス、まさにファンタスティック……!

マテルナのサンプル・シューズ
マテルナのサンプル・シューズ
マテルナのサンプル・シューズ

ピンボケしちゃってますが……。右奥に見える賞状は、マテルナ親方がかの「国際靴職人技能コンクール」にて獲得したものです。
マテルナのサンプル・シューズ

タンとヴァンプのみオーストレッグを使用した、カーフとのコンビのローファー。オーストレッグ独特の斑が中央に走る!
マテルナのサンプル・シューズ

左のキャップトウはアッパーの切り返しにマテルナ親方のセンスが光る!
マテルナのサンプル・シューズ


重厚感あるギリー・シューズは圧巻!
噂に聞いていた、「ナポレオンの履いていた靴」は飾られていませんでした。展示するのを止めてしまったのか、元々存在してないのか、どっちかは分かりません。

接客を終えたマテルナ親方は、すぐに僕の元へ来て下さいました。先ほどの件を気にする様子は微塵もなく、またも笑顔で「よろしく」とばかりに再度握手。僕に椅子をすすめて下さいました。
ゲオルグ・マテルナ親方は肩幅広く、足も長い大柄!この道数十年の風格が漂っております。でも、表情はいつも明るい微笑み。お年を感じさせない快活さ!温かい雰囲気を漂わす、素敵なおじさんです。

マテルナ親方はフットプリントの用意。
さあ〜!早速採寸です!99年2月に初めてマテルナ・シューズを見て以来、ついにやって来たこの瞬間!長かったなあ〜っ!!!
フットプリントの様子

まずは着位でフットプリント。足型をなぞり、土踏まず部分もなぞった後、指の付け根部分に印を付けておりました。次に、立位でもフットプリント。これで、立位で足がどう膨張するかが分かるわけです。
フットプリントを撮るなり、マテルナ親方が言います。
「見てごらん。君は左足の方が膨張が大きいんだ」
僕が左肩の方が下がっているのも、そのせいなのかしら?

メジャリングの様子

フットプリントの後、僕の履いてた靴の内部を観察するマテルナ親方。テリー・ムーアさん同様、インソールの沈み具合を見ていたのでしょう。
そして、甲周り、足首までの高さ等を採寸です。


僕の左足測定図。

同じく、右足の測定図。
それぞれの足型の少し上に、線が引かれているのがご確認頂けると思います。この線が、立位で膨張した分になります。

さて、採寸終了後はお楽しみ!デザインの打ち合わせです。
とは言っても、僕は最初から、マテルナ独自のデザインのフルブローグにしようと決めておりました。
「これと同じモデルを下さい」
サンプル・シューズの中から欲しかったフルブローグを指して、そう伝える僕。
「OK。でもこれはコンビシューズだけど、コンビにする?それとも同じ革にする?」
「同じ革で」
続いて、革見本を出して下さるマテルナ親方。
「ボックス・カーフ、カジュアル・レザー、ホース・レザー……」
ホース・レザーとは、要するにコードヴァンの事でした。コードヴァンにしようかな?とも少し思いましたが、最初の注文なだけに冒険はせず、無難にボックス・カーフを選びました。色は僕の好きな焦げ茶色です。
「うん、これは良い革だよ」
そう言うと、マテルナ親方は店の奥から、実際に靴製作に使う、革の大判を持って来て下さいました。
「これでいい?」
マテルナ親方は再確認。もちろん、僕は了承です。わざわざ大判まで見せて下さった、マテルナ親方の親切心が嬉しかったです。

僕が注文したモデルのサンプル。レースステイ両脇で大きくうねる豪快なパーフォレイションは、マテルナのみで見られるオリジナル・デザイン!僕はこのデザインを、マテルナ・ブローグスと勝手に命名しました。


コードヴァンのスワッチ。シカゴのメイカーとのことでしたので、ほぼ間違いなくホーウィンでしょう。
緑や紺はないものの、茶系のヴァリエイションが豊富なのは魅力的!次回は、このうちのどれかから注文したいと思っております。
「ソールはシングルにする?ダブルにする?」
シングルソールの方がスッキリ見える分、服を選ばなさそうだな〜?と思ったのですが、マテルナ親方はダブルを勧め、サンプルもダブルだったので、ダブルでお願いしました。
マテルナ靴店でも先方の意見に従い、極力ハウススタイルどおりでお願いするのが、今回の僕の基本姿勢です。

次に、ヒールとつま先の補強についてどうするか聞かれました。これは手持ちのマテルナの既製靴と同様、メタルチップでお願いしました。
「メタルチップだと、チッ、チッ、チッと歩くたびに音が鳴るけど大丈夫?」
マテルナ親方は、その場でわざわざ歩く仕草をして下さいました。僕が英語が苦手なのを分かってくれているのでしょう。可能な限り、意思疎通をしようとする姿勢が感じられて嬉しかったです。
「大丈夫です。僕、マテルナ・シューズのプレタ、2足持ってますから(笑)」
歩くたびに音が鳴るの、僕は結構好きなのです。なにせ僕、目立ちたがり屋ですから(笑)。
「パーフォレイション、メダリオンのデザインは、これ(サンプル)と同じでいい?」
「はい」
「オーソペディックにする?」
へっ?オーソペディック?何それ?戸惑う僕。
「あのー、すいません……そのオーソペディックって何でしょうか?」
僕がそう言うと、マテルナ親方はサンプルのうちの一足を、僕に見せてきました。
「ここ(インソール)を触ってごらん。これの事さ」
言われるままに触ってみると、土踏まずに当たる部分が盛り上がっている!そうか!バリントやクレマンにもあった"瘤"だ!マテルナでもやっているんだ〜!フットベッド(ドイツ語ではフスベッド)だ!
これはオプションで別途料金が発生するとの事だったが、せっかくだからお願いする事に。どんな履き心地になるか楽しみだ〜!
なお、製法については、とくに指定がなければハンドソーン・ウェルテッド製法になるようです。

これで打ち合わせは終了。マテルナ親方から名簿に名前と住所を書くように言われて、記入する僕。

「完成したら、日本に送る?それとも、ここまで受け取りに来る?」
「はい、送って下さい。いつ頃完成しますか?」
「5〜6週間後かな」
完成までも早いですね〜!
「あ、でも僕、帰国が来年の元旦の予定なんです」
「じゃあ、その頃に送るよ」

マテルナ親方は靴代、フットベッド(オーソペディック)のオプション料、送料の合計を計算し始めました。電卓を使わず、筆算で計算していたのが(たまたまかな?)、いかにも昔ながらの職人さんでした。マテルナ靴店は、カード会社との提携もなければ、メールアドレス、ホームページもありません……不便と言えば不便なのですが、なんか良いですね。こういうの。
ここで、はたと、とある事に気付く僕。
「シュー・トゥリーは付いてくるんですか?」
「ん?シュー・トゥリーは3種類あるよ」
どうやらシュー・トゥリーは別途料金のようです。マテルナ親方の説明によると、以下のとおりでした。

1・スプリング式で踵が棒状(30ユーロ)
2・スプリング式で形状はダスコのように足の形(65ユーロ)
3・3ピースのブロック式(135ユーロ)

スプリング式の2点は既製品で(多分)、ブロック式のみ、顧客の足に合わせた注文品のようです。せっかくですから、僕はブロック式を選びました。

料金は靴が940ユーロ、オプションのフットベッドが70ユーロ、シュー・トゥリーが135ユーロ、送料47ユーロ、合計1,192ユーロとなりました。良心的な価格設定ですね〜。

しかし……またもちょっと困った事が。先ほど、僕はATMにてお金を引き出して来たわけですが、シュー・トゥリー代まで考えていなかったので、再びお金が足りなくなってしまいました。

「あの〜、すいません。僕、シュー・トゥリーの代金まで持って来てなくって……。明日、その分を払う形でいいですか?」
などと、またも恥ずかしい僕。
「もちろんOKだよ」
マテルナ親方は快く了承して下さいました。ありがたいなあ……。
「お金はまとめて払う?それとも、注文時と納品時の分割にする?」
「まとめて払います」
「OK。明日払ってね」

その後は撮影許可を頂き、毎度のとおり(うわ)店内を撮影しまくりました。マテルナ親方は僕との接客が終わると、すぐに別のお客様との応対を始め、終始忙しそうにしておられました。

ちなみに帰り際、僕は店内に手袋を忘れてしまい、「おーい、忘れ物だよ〜」と、マテルナ親方に呼び止められる一幕がありました……。
支払いの事といい、マテルナ靴店では最後までみっともない姿をさらし続けた僕でしたっ……!
偉大な靴職人の銅像

マテルナ親方曰く、「これは偉大な靴職人の銅像だ」。
騎士のような堂々たる風貌がカッコ良いぞ!

マテルナ親方が獲得したトロフィー


マテルナ親方が獲得したトロフィーと金メダル。
マテルナ親方の会心作

マテルナ親方が金メダルを受賞した靴。

マテルナ親方の会心作

左に同じくです。
マテルナ靴店のワークショップ内

「ここ、写真撮っていいですか?」
「OKさ!」
そう言って職人さんは椅子に座り、「よーし、撮れッ」と言わんばかりに、ラストを削ってる様子を見せて下さいました。サービス精神がありがたいです!思っていたよりも早い手捌きに驚きです!

マテルナ製ベルト

クロコ、オーストレッグ、鮫といったエキゾチック・レザーのベルト。もちろん、スムース・レザー、グレイン・レザーのベルトも揃っております。

オーストレッグ

エキゾチック・レザーを扱うのが得意なメイカーらしく、オーストレッグ(オーストリッチの脚)のカラー・ヴァリエイションがこんなに!
ガルーシャ

ガルーシャもこんなに!
ちなみにマテルナ親方は、この革が「エイ」と説明するのに、英語だけでは伝わらないだろうと、手を腰に持ってきてピョコピョコ動かし、エイが泳ぐマネをして下さいました。マテルナ親方の優しさが嬉しく、そして、その身振り手振りがユーモラスでおかしかったです(笑)。
マテルナ靴店価格表

マテルナ靴店の価格表。既製靴で590ユーロ〜。ビスポークで920ユーロ〜。僕が注文した靴はダブルソールだったので、940ユーロとなりました。象革、ペッカリー、バッファロー使用で+310ユーロ。クロコダイルの靴は2,740ユーロ。
仮縫いがないとは言え、このクォリティでこれだけリーズナブルなのには驚きます!バリントといい、ウィーンでは物価に比して、ハンドメイド・シューズが安いっす!
ゲオルグ・マテルナ親方と山下大輔
「いっしょに写真撮ってくれますか?」
「いいとも!それならここで撮ると、カッコいいぞっ!」
そう言って、銅像の脇に立つマテルナ親方。職人さんにシャッターを押してもらい、記念の一枚!
それにしても、マテルナ親方は良い人でした……。僕も含めて、お客様が帰る際には、必ずマテルナ親方自らお店のドアを開けて、見送っていたのが非常に印象に残っております。これは、僕がATMへ突っ走りに出て行った時も(笑)同様でした。この一日で、すっかりマテルナ親方のファンになった僕です。


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